第3話 勇者の力

「最強の力を……俺が?」


「はい。神が勇者にのみお与えになられる奇跡だと聞き及んでおります」


 そんなのがあるのか。本当ならすごい事だ。


 ならさっさと最強になって、魔王だか邪帝王だかを倒して受験しに帰るべきだろう!


「で、具体的にどうすればいいの?」


「ステータスと言ってみてください」


「ステータス?」


 フォンッと音を立てて俺の視界に数字の並ぶ青い画面が浮かんだ。


「うおっ!? なんだこれ?」


「それは我らが守護神アルデム様より授けられた加護です」


「このゲーム画面みたいなのが?」


「ゲーム画面という意味はよくわかりませんが、加護を受けた者が理解しやすいような形で映し出されるようです。ちなみにわたくしは書物の形で見えます」


「なるほど、人によって違うのか」


「それでなんと書いてありますか?」


「ええっと――」




 名前:大野勇


 称号:勇者


 レベル:1 攻撃力:1 防御力:1 敏捷:6 知力:48 魔力:0 幸運:5


 スキル:言語理解




「――なんか、知力以外は微妙そうな数字だな……。レベルも1だし、スキルも言語理解ってやつだけだし」


「それでいいのです。魔物を倒せばレベルが上がり、神の加護により新たなスキルを得たり、能力が飛躍的に上昇したりするはずですよ」


「マジでゲームみたいだな」


 つまり魔物を倒せば俺は強くなれるわけだ。そして目の前には経験値になってくれそうな敵がわんさかいる。


「あ、でも武器がないぞ? どうする?」


「その拳は飾りですか?」


「素手でゾンビを殴れっての!?」


「嫌ですか?」


「嫌に決まってんだろ! やれって言うならあんたのその杖を貸してくれよ!」


「これは聖杖アンカレシアという神器です。鈍器として使うなどあり得ません」


「俺の拳だって鈍器じゃねーよ!」


「しょうがないですねぇ……」


 やれやれと嘆息するラーティ。


 こいつ本当に泣かしてやろうか……。


 そんな仄暗い感情をよそに、ラーティは魔法使いの爺さんが持っていた木の杖を拾い上げた。杖とは言っても小振りで三十センチもなさそうだ。


「ひとまずこれで殴ってはいかがでしょう?」


「素手よりはマシか……。でも結界越しに殴れるの?」


「この結界は邪悪なる者を阻む聖なる障壁です。わたくし達の持つ武器や体は素通りできますよ」


「そりゃ便利だな」


 となれば敵に囲まれた今この状況はピンチから一転、レベリングに打って付けの稼ぎ場になる。


 だったらさっさとレベルMAXにして邪帝王だか何だかを倒してしまって、元の世界に帰ろう!


 俺は杖を握り締め、手近なゾンビを殴り倒した。


「おお……たしかに素通りだな」


「レベルは上がりましたか?」


「どれどれ」


 俺はステータス画面を出してみる。




 名前:大野勇


 称号:勇者


 レベル:1 攻撃力:1 防御力:1 敏捷:6 知力:48 魔力:0 幸運:5


 スキル:言語理解




「上がってないな。レベル1のままだ」


「倒したゾンビは大した経験値じゃなかったのかもしれませんね。ではもっともっと敵を倒してください!」


「よし! じゃんじゃん稼いでレベルアップするぞ!」


 俺は杖を振り回し、ゾンビどもをタコ殴りにする。


 なぜゾンビばかりなのかというと、他の奴は硬すぎて倒せなかったり、ブヨブヨで手応えがなかったからだ。まぁレベル1だから弱いのはしょうがない。


「はぁ……はぁ……結構倒したぞ!」


「レベルは上がりましたか?」


 ラーティに言われてもう一度ステータスを確認する。




 名前:大野勇


 称号:勇者


 レベル:1 攻撃力:1 防御力:1 敏捷:6 知力:48 魔力:0 幸運:5


 スキル:言語理解




「上がってないな……」


「あれだけ倒したのにですか? もう十体は倒したと思うのですが」


「十体くらい倒せばレベルが上がるもんなの?」


「レベル1なら普通はそれくらいで上がるかと」


「う~ん、となるとゾンビは経験値がないのかな?」


「経験値がないなんて、そんなはずは……」


 難しい顔で腕組みするラーティ。


 なんか雲行きが怪しくなってきたな。


「あのさ、根本的な話なんだけどさ。レベルアップって具体的にどうやるわけ?」


「魔王のしもべを倒すだけです」


「魔王のしもべってどこにいるの? それって邪帝王のしもべでもいいの?」


「……」


 顔を強張らせるラーティ。嫌な予感しかしない。


「おい、黙らないでくれよ。どうなんだよ?」


「さ、さぁ……」


「さぁじゃねぇよ! レベルが上がらなかったら俺なんかただの一般人だぞ。村人その一に邪帝王を倒せとか無茶振りにもほどがあるぞ!?」


 その時、急に空気が冷えた気がした。


 濃密な負の気配を感じ、悪寒が走る。


「ほう……我が配下どもの攻撃を受けてまだ生き残りがいるとは面白い」


「誰だ!?」


 どこからか響く声に、俺は辺りを見回す。


 すると宙に暗い穴のようなものが空いている事に気が付いた。


 暗い穴の先に見えるのは、紫のローブに暗灰色の軟体動物のような頭を乗せたおぞましい化け物の姿だ。その目は七つもあり、うっすら赤く光っている。


 そのモンスターは口元の触手を不気味に動かし、告げた。


「我が名は邪帝王ドロメア=バスティスソロス=イア=ゾルトゥーラである。汝らが召喚されし勇者だな?」

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