第2話 初めての戦い

 突然血を吐いて倒れた王様を見て、俺は度肝を抜かれていた。


「へ、陛下――ぐあぁっ!?」


 更に魔法使いの爺さんまで貫かれる。


 その後ろから、剣や槍を手にしたゾンビの兵士がワラワラと侵入してきた。


「な、なんだありゃ!?」


「イサム様! わたくしのそばへ!」


 ラーティは虚空から杖のようなものを現出させ、地面にトンと打ち付ける。


「聖なる守護神アルデム様、不浄なる敵から我らをお守りください――ホーリーシェル!」


 その瞬間、俺とラーティの周囲に半透明の壁が展開された。


「うおおおっ!?」


 触手に剣に槍にと俺の眼前でバカスカ攻撃されるが、半透明の壁はそのすべてを阻んでいる。


「聖なる結界を展開しました。この中にいれば安全です!」


「ひぃぃっ!?」


 見えない壁一枚越しでめちゃくちゃに触手や武器がぶん回される。安全と言われても正直怖すぎる。


「ゆ……しゃ……殿……」


 血だまりに沈む王様が、かすれた声を漏らした。


「おい、大丈夫かあんた!?」


「私はもうだめだ……。だが元よりこの城は陥落寸前であったゆえ、覚悟していた事……げふっ」


「おい! おい! おっさん!」


「世界を……頼む……」


「おい! 死ぬな!」


「イサム様、お下がりください。癒やしの術を使います! 聖なる守護神アルデム様、傷付いたこの者の肉体をお戻しください――ヒーリング!」


 その瞬間、王様と魔法使いの体がほんのり光った。見る間に傷口が閉じてゆく。


 おお、これは回復魔法的なやつか!? さすがは聖女だ!


 しかし傷はなくなったにも関わらず、王様も魔法使いも動かない。


「お待ちください! 死んではなりません! 目を覚まして……っ」


 必死に揺するが、反応はない。どうやらすでに事切れてしまったらしい。


「そんな……死なないでください……」


 ラーティの顔が悲痛に歪む。


 聖女というだけあって、きっと心根は優しい人物なんだろう。俺も残酷な現実を前に歯噛みする。


「お城が陥落寸前で勇者召喚など何をお考えなのですか!? 覚悟を決めて天に召されるのはご自由ですが、わたくし達を道連れにしないでくださいよぉ!」


 王様の襟首をつかんでぶん回す。


 前言撤回。こいつ本当に聖女か……?


「おい、落ち着けって」


「これが落ち着いてなどいられますか!?」


「気持ちはわかるけど、仏さんをいたぶるのは趣味が悪いぞ。あんたの神様はそういうの禁じてんじゃないのか?」


「大丈夫です。邪悪な死体はいたぶり尽くせと神は仰っております」


「邪神じゃねぇか! ほんとにあんた聖女なの!?」


「そんな事よりこの状況を何とかしませんと。結界の外は死霊だらけです」


 言われて周囲を見ると、半径数メートルの結界を取り囲むようにしてホラー映画よろしく骨だのゾンビだのがうようよしていた。


 爪で引っ掻いたりかじったり、腐食性の汁を飛ばしたりと色々やっているが、結界はそのすべてを弾いている。


「……結界って壊れる?」


「それはまぁ。この程度の攻撃で易々と破られはしませんが、限界はあります」


「なるほど。じゃあそれまでに脱出しないといけないんだな……。で、どうする?」


「どうしましょう?」


「……」


「……」


 二人顔を合わせて沈黙する。


「えっ? 攻撃手段はないの?」


「ないですねぇ」


「いや、何かあるだろ。ほらあれ、聖なる光とかで死霊を払う的なやつ、実はあるんだろ?」


「あったらいいんですけどねぇ」


「さっきのヒーリングってので死霊系モンスターにダメージとか……」


「試しましたけどダメでしたねぇ」


 ラーティは肩をすくめて嘆息する。


 俺は口元をヒクつかせていた


「冗談はよせよ。邪悪な死体はいたぶり尽くせって神様も言ってんだろ? 邪悪そうな死体、いっぱいあるよ?」


「仰る事はごもっともですが、しかし聖女たるわたくしが神より授かったのは、弱き者を守るための力です。攻撃手段はございません」


「マジか……」


「マジです」


「じゃあどうやって魔王を倒そうと思ってたんだ?」


「そのためのイサム様です」


 ラーティは強気の表情で微笑んだ。


「神より与えられた勇者の力とは、無限の成長。イサム様は最強の力を得る可能性があるのです!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る