多様性
藍田レプン
多様性
常々私には疑問に思うことがあった。
それは、どうして世の中の幽霊の外見はワンパターンなのかということだ。
ごく一部の例外を除けば怪談に出てくる幽霊の姿は
・白い服の黒髪ロングヘアーの痩せた女
・老人
・首の無い男
・生首
・子供
・軍人
の五種類程度だ。
とりわけ『白い服の黒髪ロングヘアーの痩せた女』が多い。
どうしてだろう。
今時黒髪ロングヘアーの女性は少ないし、少し時代をさかのぼっても総体で見ると多くないのではなかろうか。
ロングヘアーにしても三つ編みにしたり綺麗に結ったりしている女性のほうが多いはずだ。
それに白い服なんて!
死に装束を着て出なければいけない決まりがあるのなら、落ち武者や兵隊はルール違反になるはずだし、子供は白服よりも幼稚園児服や赤や朱色の着物を着ていることが多い。
これは一体どういう理由なのだろう。
そんなことを考えていたら、私は事故に遭って死んでしまった。
血まみれになって横たわる自分の肉体を空中から見下ろし、あーあ、あっけない人生だったな。
まあでも痛みが一瞬で良かった。なんてことを思いながら、私は天に召されていった。
そして天界で私は真実を知ってしまった。
そこは壁も床も天井も真っ白な(正確には淡いライトグレーだ)部屋で、黒いフードをかぶった案内人が1人ぽつんと立っていた。
そしてモニターのようなものを目の前の空間に出現させると、「この中から選んでください」と陰気な声で私に告げた。
モニターには、
・白い服の黒髪ロングヘアーの痩せた女
・老人
・首の無い男
・生首
・子供
・軍人
の姿が映っていた。
なるほど。そういうことか。
つまり人間は死んだあと自分の姿ではなく、この少ないアバターの中から選択することになるのだ。
そしてこの選択肢の中に成人女性はひとつしかない。
それでみんなしぶしぶ「よぼよぼの爺婆や首の無いおっさんになるくらいならこれでいいわ……」と『白い服の黒髪ロングヘアーの痩せた女』を選んだのだろう。
納得はいった。納得はいったがこのアバターの少なさには納得がいかなかった。
私はフードをかぶった陰気な案内人に詰め寄った。
どういうことなんですか、いくらなんでも選択肢が少なすぎやしませんか、今時のゲームだってもう少しキャラメイクの余裕はありますよ、私はこの中のどれにもなりたくありません。
そうまくし立ててフードの中にあるのかないのかわからない顔を睨みつけると、困ったように「それでは」と言って画面右上の『設定』と書かれた部分にタッチした。
すると大量のパーツが表示されたではないか。
「あるんじゃないですか!」
と私が叫ぶと、
「皆さんに詳細設定モードで作ってもらうと時間がかかりますので……
あと日本の場合お亡くなりになるのは圧倒的にご高齢の方が多いので、詳細設定モードは疲れる、と言われるんです」
と返された。
なるほど。
まあそんなわけで私は無数のパーツを自分好みに組み合わせ、生前の憧れだった『ムキムキマッチョな色黒太眉無精髭の土木作業員』として死後を楽しく過ごしているのだ。
多様性 藍田レプン @aida_repun
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