24.交戦
◆
君は下層居住区での生活で、いろいろとヤバいことを経験してきたが、その磨き抜かれた危険感知センサーが「これは一等まずい、かも」と告げていた。
他の警備ロボットとは異なる外見をしたその赤い個体は、シンプルな人型のフォルムをしていて、センサーアイの一つも見当たらない。
ボディの表面はとても滑らかで磨き抜かれており、顔を近づければ映り込んでしまいそうなほどだ。
"そこそこ仲良くやれそうな連中と気ままに楽しく廃墟のお掃除"と洒落込みたかった君は、久々のシリアスの展開に少し気落ちする。
刺々しかったあの頃の自分はもう卒業したんだ──というのが君の主張である。
・
・
・
アサミは赤い警備ロボットの無貌の面がステルス・コートを徹して自身を見ていることに気づいた。
──明らかに私たちを認識している
そう思った瞬間、件のロボットが左の掌を向けてきた。
アサミは「散って!」と鋭く叫び、三人はコートからほぼ同時に別々の方向へ飛び出す。
同時に、三人が背を預けていた壁が粉々に破砕された。
破壊ではなく──破砕。
──光子兵器までッ……!
赤いロボットがどんな兵器を使用したかを理解したアサミは、常の強気な表情に一瞬不安の影が差す。
光子兵器はブラスターに代表されるエネルギー兵器と異なる性質を持つ。
杓子定規にどちらの兵器の方が威力が上かとは 一概には言えないが、防ぎにくさ という点では光子兵器の方が はるかに厄介だ。
一般的な ブラスター兵器はガスをプラズマに転化し、それを敵にぶつける事で破壊を生み出す。
この威力は非常に大きいものだが、 単純な装甲の厚さや硬度で防ぐ事が出来たり、電磁バリアなどで偏向させることができるため、防ごうと思えばそこまで難易度は高くはない。
しかし光子兵器の場合は収束した光子を放ち、対象へ浸透させて外部破壊と内部破壊を同時に齎すため、単純な物理防御では防ぐ事ができない。
また、光子は電荷をもたないために電磁シールドの 類でも 防ぐことができない。
しかし生産性やコストの面から誰でも所有できる武器ではない。
◆
惑星D80グリッド2024廃墟群は、かつてこの星の都市管理AIが管理していた。
大規模気候変動により惑星の住民が脱出した後も、AIは都市の管理を続けたが、経年劣化とメンテナンス不良が重なり、次第に狂っていく。
しかし管理AIは都市を管理するという目的だけは忘れることなかった。
赤いロボットは、その狂気の中で生み出された都市防衛ロボットである。
その剣呑さは警備ロボットとは一線を画す。
それは警備、防衛という二つの言葉の意味を調べてみれば分かるだろう。
・
・
・
赤い防衛ロボット──都市管理AIによってRB-07と名づけられたこの個体には量子センサーが備わっている。
これは光学迷彩や電磁波の偏向だけで隠ぺいしきれないエネルギーの揺らぎを捉えるもので、軍用ステルス・コートの隠ぺい性能を大きく超える探知性能を持つ。
──隠れてやり過ごす事は出来ない……それなら!
コートの裏から飛び出したアサミの動きが、直線から曲線の連続へと変わった。
臨戦の気配。
アサミは戦る気だった。
まるで大蛇がうねるような、滑るような足運びでスルスルとRB-07との距離を詰めていく。
その間にもアサミの右拳が引かれるが、RB-07は既に迎撃の用意が整っている様に見える。
──おいおい、ステゴロかよ。いや、何か仕込んでるな
君はそう思うや否や、RB-07に向けて握り拳を向けた。
こちらは何の種も仕掛けもない、ただの拳だ。
しかし意図がないゆえに読む事もできない。
RB-07は1秒の100分の1にも満たない僅かな時間を君への警戒に割き、結句、アサミの対サイボーグ用の白兵拳術 "パルサー" をどてっ腹へ受ける事となった。
宙空にはじけ飛ぶ紫電はまるで花の様で、君は圧縮した意識の中で、一瞬にして咲き枯れゆく電花を存分に楽しんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます