21.チュウニドラビルヂング④
◆
リックは唖然として立ち尽くした。
「嘘だろ、軍用ブラスターだぞ」
警備ロボットの内の一体が、リックに向けて銃を構える。
リックにはその所作がやけに遅く感じられた。
その気になればあっさり避けることができるんじゃないか──そんなことを思ったが、体は動かない。
警備ロボットが向ける銃口は、リックの位置から見れば小さな黒い円にしか見えなかったが、その黒い円がどんどん大きくなっていくように感じる。
匂い立つほどの濃厚な死の予感が、数秒も経たずにリックの精神の均衡を崩したのだ。
真っ黒い不穏な円がリックの視界で膨れ上がり、彼は小さく「クソッ」と呟く。
誰だって死にたくはない。
死ぬことを覚悟するというのは、とても大変なことだ。
それでも……どうしても死の運命を回避できないとなれば、人それぞれ、いわば"死ぬ準備"というものをする。
例えば目を瞑ったり、拳を握り込んだり、家族や友人、恋人のことを考えたり。
リックの場合は、「クソッ」という罵倒の言葉を吐く事だった。
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「ケージ、どうする?」
アサミがそんなことを聞いてくる。
「どうするって言ったってなあ。俺たちもあの連中に習って抜けた方がいいと思うぜ。なあ、レミー」
君はレミーの方を向いて同意を求めた。
君は好奇心旺盛な性格をしているが、わきまえるべき時はわきまえるだけの理性もある──ただし、ギャンブルは除くが。
すると、この大柄なベルトラン星人の青年は、君とアサミに向かってゆっくりと頷いた。
「そうと決まればビルから脱出しましょう。エレベーターは使えないから階段になるわね。清掃用の荷物は置いていきましょう」
アサミは言うなり駆け出そうとしたが、その腕を君が強く掴んだ。
勘でも特殊能力でもない、もっと無骨で無粋なモノ……内蔵センサーで強力なエネルギー反応を感知したのだ。
「何よ!」
アサミが抗議の声を上げるやいなや、上の階層から幾つもの光条が降り注いでくる。
──ブラスター!
光条は、階段を駆け下りていた他の事業団員たちを飲み込んでいった。
文字通り光の速さだ、断末魔を上げる暇もない。
死体が焼け焦げた臭いが広がり、レミーが僅かに身じろぎをした。
アサミは目を見開いて眼前の惨状に呆然とするが、精神を立て直すための時間は1秒も必要としなかった。
「階段は不味いわね。別のルートから脱出しましょう! ……そんなルートがあればだけどね」
アサミが君を見て言うと、君も頷く。
質問をする暇はなかった。なぜ上階からの攻撃を感知できたのか、何かセンサー類を持ち込んでいるのか。
──謎めいた男は嫌いじゃないわ。
そんなことを思いながら、アサミはこれからどうするかと頭を巡らせた。
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またぞろ物書き趣味を復活させました。いい加減ゲームもあきたので。
活動報告/近況ノートなどに直近の状況を書いてます。よかったらよろしくです。
それと、「廃病院の噂」というホラー短編も最近あげているので、暇な時読んでください。
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