第36話 惑星C66、カスタマイズ
◆
翌日、君は珍しく早起きをしてメーカーのショップへ向かった。
前回はアロンソと出くわしてしまい、なんだか面倒になってホテルへ引き返したのだ。
ショッピングモールに到着すると、君はドエムを腕に抱えたまま、メーカーのショップを探し始める。周りは様々な店舗が並び、人々で賑わっている。
目移りしてしまうがそれでも君の目的は一つ。ドエムのカスタマイズだ。
目当てのショップを見つけると、君はドアを押し開けて中に入る。店内は静かで、最新の技術がずらりと展示されていた。
販売員が近づいてきて、「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」と君に尋ねる。
生身のアースタイプだ。
この時代は無人販売も珍しくはないのだが、どこもかしこも無人販売で、逆に有人の店がウケる傾向にあった。 "温かみ" を感じる客層を狙っているのだろう。
「ああ、このガイドボットのバッテリー拡張と、翻訳機能の追加を考えているんだ。ジャンキング・ジャンキット社の製品なんだけれど大丈夫だよな?」
販売員はニコリと笑い、「それならば、こちらへどうぞ」と案内した。
ただ、目の温度がやや低い。
──まあなあ、ジャンキング・ジャンキット社は安売り企業だしな。しかも持ち込んだガイドボットときたら何世代前の製品か分からないときているから仕方ねえか
君は内心で苦笑しながら、貧乏人扱いを甘んじて受けた。現実として君は余り自由になる金がないのだから当然なのだが。
生身の体へ戻る為にはバカみたいな額の金が必要だ。余り無駄遣いをしている余裕は無かった。
オプションの詳細と費用について説明を受けた後、君は頷き、手続きを進める。
ちなみに取付作業はショップではなく、メーカーに送られて最寄りの作業所などで行われる事になっている。
ショップの役割は契約を取る事とメーカーと客との仲介だ。
「翻訳機の設定についていくつかご希望を御聞かせください。声の種類や高さ、性別……サンプルなども聴けます」
販売員はそういって、一枚のタブレットを君に手渡した。
君はそれを受け取り、「声か……」と考え込む。
男の声か、女の声か、それとも性別を感じさせない機械的な声がいいのか。
しかし、最終的には「ドエムが選んでくれよ」とぶんなげた。
結句、声は少女のものとなった。
君の趣味ではなく、ドエムの選択によるものだ。
◆
「それではお引き取り日時は2日後の正午という事でよろしかったですか?」
販売員の言葉に君は頷き、僅かな間とはいえドエムと離れる事に少し寂しさを感じる。
君は別に孤独を好むロンリーウルフというわけではなく、むしろ寂しがりやの部類に属するのだ。生身だった時、恋人がいない時期は独り寝を寂しがる余りに風俗は必ず泊まり込みで予約していた程である。
セックスに伴う物理的、精神的な生臭さに君は時に辟易とさせられるものの、女体の甘肌が恋しくなることもある。
泊まり込みとなると勿論金額は跳ね上がるわけだが、そこは小金持ちなどからだまし取った金で十分ペイできる。全く自慢にならない話ではあるが、君には確かな詐欺の才覚があったのだ。
そんなわけで手続きを終え、販売員からドエムの一時的な預かり証を受け取った後、君はショッピングモールの喧騒を背にしてホテルへと戻る道を歩き始めた。
帰路につく足取りはセンチメンタル・ウルフのステップを刻んでいる。足跡から哀愁が香るほどに頼りのない歩調だ。
道中は幸いにも暴漢に絡まれる事はなく、無事にホテルへと辿り着いた。古臭いホテル特有の黴と埃の匂いが君の嗅覚を凌辱しようとするが、しかし直ちにそれらは分解されて無臭化された。
部屋に戻ると君は寝転がり、煙草を吹かしつつ端末を弄りだす。特に意味も目的もない端末弄りだ。ドエムはおらず、隣室のペイシェンスはどこかに逃亡中で話す相手もいない。
──独りきりでこんなモンをいじるくらいなら、チンポでも弄ってたほうがマシだぜ
君のさみしんぼ根性が精神に孤独の毒を滲ませていく。
「おら、たて!」
毒に狂った君が下半身に命令を下すと、陽根がむくむくと起き上がり自己主張を始める。
君の下半身も当然機械化されているのだが、オーダーに応じて臨戦態勢を取る事が可能なのだ。これは君に施されたオペレーションの基本機能の一つである。
クソの様な機能に思えるかもしれないが、"欲" を満たす事は富裕層にとって非常に重要な事であり、特に性欲についての機能は豊富だったりする。
しかし肝心の──……
「はあ、何も感じない」
君は疲れた様に呟き、「萎えろ」と口にだして命令した。するとアレはしおしおとしぼみ、君はなんだかクサクサした気分になって省エネルギーモードへと移行し、動きを停めた。
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