第33話 惑星C66、帰星
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調査中は色々あったものの、帰りの道中は山もなく谷もない平穏なものだった。
"棺桶号"は自動運転で惑星C66の事業団の専用ドックへと収まり、君はドエムを抱え上げて船を降りる。
君の様なアースタイプはこの星系では圧倒的多数の筈なのだが、惑星C66の宇宙港の中央広場ではむしろ少数派だった。
自身が異質であることに普通なら肩身が狭くなるのかもしれないが、君はむしろ心安らぐものを感じていた。
自身と相手、その距離感が近ければ近い程君は落ち着かない気分になる。
無自覚の内に距離を取りたくなる。
君はいつからか、同じアースタイプを苦手とする様になっていた。
アースタイプが、というか人の体と心がどれ程脆いのかを君は良くしっている。
身に染み入る程に理解している。
だから知らず知らずのうちに異質なモノを求めてしまうのだ。
君のここしばらくの女性遍歴にもその辺りの傾向が如実に表れている。
宇宙港はいつも通り多様な種族で溢れており、各々が自分たちの言語で話していた。
ちなみにこの星系の公用語はイングリッシュだ。
公用語は基本的にその星系の最大勢力が使用している言語の中から選ばれる。
ただしこの時代は翻訳機器も発展しており、コミュニケーションで困るということはそうはない。
外星人達は君と同じ人型をしている者もいれば、完全に異質な形状をした生命体も見受けられる。
しかしどういう姿をしていようと "ヒト" なのだ。
君は向かいから歩いてくる "渦" に道を譲り、宇宙港から立ち去っていった。
彼、あるいは彼女は惑星G220を中心としたガス惑星群の出身の外星人である。風が渦を巻いている姿をしており、ミニチュアの竜巻にも似ている。また、歩く際には多少の気流を伴う。
彼らの体は固体である核を中心に、ガスと液体の層で構成されている。また、体色の変化によってコミュニケーションを取る。
食事は大気中の微生物やエネルギーを含むガスを摂取することによって行う。そして単性生殖を行い、自らの体の一部を分離させて新たな個体を形成する。
渦星人は基本的に温厚な気質だが、翻訳機無しで彼らとコミュニケーションを取るのは至難だ。
ちなみに彼らに人格を認めるにあたっては
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宇宙港から出た君は「ああ、夜になっていたのか」とつぶやいた。
宇宙港周辺は大きな広場となっており、多くの外星人達が客船の出航時間をまっていたり、他文化圏の者達とコミュニケーションを取ろうとしていたり、もしくは単に暇つぶしをしていたりする。
空は深い藍色に染まり、星々が瞬いている。
前時代と違い、今はその気になれば気になる星があればカジュアルに出かけられる時代だ。
──次はどの星に行こうかな
そんな事を考えながら空を見上げると、星系内の各惑星からの宇宙船が光の帯を描きながら港へ向かっていくのが見えた。
広場に様々な食べ物を提供する屋台が軒を連ねており、旅行者と思しき外星人たちが列を成して並んでいる。
君はそんな屋台の一つに目を留めた。
販売員が頭から生えた複数の触手を巧みに使い、注文を受け、食べ物を準備している。
真っ青な球形の果物の様な謎の物体であった。
しかも大きい。
バレーボール大はあるだろうそれを、販売員がレーザーナイフで真っ二つに割ってバーナーで炙っている。
「ドエム、あれは何かわかるかい?」
尋ねると、キュンキュンキュンと音をたててドエムが答えた。
曰く、「肉である」との事。
更に聞けばドエムは奇妙な事を言い出した。
君の耳にはおしゃまな幼女が大人ぶってこの様に話している様に聴こえる……
──宇宙にはしばしば、青い球形の肉が漂っているのを見つける事があります。それは何の肉だか誰も分かりません。しかし肉なのです。とある学者は恒星間生物から剥がれ落ちた体組織だと言います。またある学者は商業用民間船が事故に遭うか何かして貨物が宙域に放流されてしまったのだとも言います。しかし真相は誰にも分からず、また、調べようともしません。青い肉に毒性がない事は解析により明らかになっていますが、結局それが何の肉だかは誰も分からないのです
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