第31話 惑星U101⑪
◆
君は無言で指で唇を擦って、まじまじと見てみる。
指には黒い粒子が付着しており……
べろりとそれを舐めとった。
ドエムはビガビガギギギと騒ぎ立てる。
翻訳するとすれば、「お前何してるの!?」と言った所だろうか。
だが君はエモを大事にしている男だ。
それに見栄っ張りでもある。
謎の黴……いや、女に命を救ってもらった事は確定的に明らかである事だし、そんな女が残していったモノをぺっぺと吐き出すなんてノーサンキューな話であった。
「いいんだよドエム。なんとかなるさ。……ってもなあ、あの女は何だったんだ。いや、あの黒いのだろ?それは分かる。わかるんだけどよ」
なぜ自分から出てきた!?と言う疑問が君にはあるが、考えても考えても分からない。
「要はくっついてきたんだろう?何でかは知らないけど。それはいいけど、どこに行っちまったんだろうな。チューの後にさ、消えちまっただろ?もしかしてまた俺の体のどこかに潜り込んでいたりするのかね」
君はツと自分の体に視線を落とすが、何か変化があるようには見えない。
ドエムからも
「……まあ、もういいか。いいな」
君は呟き、最後にとばかりに森へ目をくれ、ドエムを抱えてその場を立ち去った。
『知らなければいけない事なら放っておいてもいつかは知る事になる、だから少し考えて分からない事に多くの時間を割く必要はない』──…というのは君の人生哲学だ。
要するに適当と言う事である。
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「次は最後のポイントか」
君は空を見上げた。
いつの間にか日が傾いている──…夕暮れだ。
この星にも雲はある。
それが君の知る真っ当な雲かどうかは分からないが。
君は暫し空を見上げたまま固まった。
故障ではない。
感動という名の鎖が君の両足を地面に縛り付けている。
君は無言で空を見上げ続けた。
水は光を反射する。
惑星U101──…この星は水の膜で覆われている事から、空にはこの星特有の幻想的な夕焼けが広がっていた。
それは以前君が見た惑星Pの光夜にも似ている。
しかし、惑星U101の場合は惑星Pのそれとはまた違って、水膜による光の乱反射の分、空模様の変化に富む。
「おほっ」
君が気持ち悪い声をあげた。性感帯をジェリー状の触手で刺激された時の様な気味の悪い嬌声だ。
だが、誰が君を責める事が出来るだろうか。
それだけ美しい空だったのだ。
空は見る見る内に様々な色彩が入り混じり、幻想的な景色へと変わっていく。
夕日のオレンジ、蒼穹の青──…色はめまぐるしく変転し、朝と昼、夕と夜、全ての刻が僅かな間だけ共演した。
水膜の隙間から垣間見える星々の光に魅せられた君は、感動の余り無意識の内に煙草を取り出す。
幻想的な光景を肴に一服、二服。
粗悪な煙草はグロテスクな程健康に悪いが、君の肺はハイスペックなので何の問題もない。
君は暫し足を止め、周囲を見渡した。
空からの光で草原が鮮やかに色付いている。
屈んで一本引き抜こうかと思ったが……
「やめとくか。マナーの悪い観光客みたいだ」
そう呟き、君は最後のポイントに向かって歩き出した。
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近況ノートに④~⑪までの画像をあげています。
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