第26話 惑星U101⑥

 ◆


「次の場所はどこなんだ?」


 君は空をちらと確認しながらドエムに問うと、ドエムは再び宙にホログラムを投影し、その場所を示す。


 距離的にはそう遠くはない。


 首筋がチリチリする様な、胃の腑が小躍りするような感覚もない。


 しかし、「いいね、じゃあ今度はのんびり景色でも見ながら行こうか」と言った矢先の事であった。


「なんだ?アレ」


 君の驚異的な視力が何かを捉えた。


 空の向こうから何かがやってくる。


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 ・

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 "遠くを見よう" という意思に呼応して、君の瞳がレンズ・モードになり、視界の中でそれを拡大する。


 それはしいて言うならばエイであった。


 金色の目を持つ巨大なエイだ。


 セルリアン・ブルーの体から翼のような大きなヒレが生え、波打つ様に動いている。


 ただ君はエイという生き物について知らない為、「個人戦闘艇みたいだな」などという些か情緒に欠く感想を抱いた。


 ──結構大きい、のか?この距離であんな風に見えるってのは……


 君がそんな事を考えていると、君の便利なご都合半電脳が1秒もかからずにその生き物の大きさを測定する。


 その大きさは約20mだ。


 大体7階建てのビルと同じくらい大きいという事だ。


「そういえば正体不明の生物に注意しろみたいな注意事項があったんだっけか?」


 依頼についてドエムに問うと、ドエムが「ビギュアガガガ」と是の意を示す。


 音声データを再生する際、データが破損して意味不明の不協和音が再生された時の様なその声は、しかし君の耳には変声期前の少年の声の様にも聞こえるのだから不思議であった。


 言っている事も理解が出来るので支障はない。


 しかしドエムは早期にこの状態を解消…つまりオプション代金を支払って、会話機能を追加する事を君に対して推奨している。


 なぜならば、君とドエムが会話する分には良いとしても、ドエムが誰かに対して何かを説明する事がないとも言い切れないためだ。


 例えば調査内容について確認事項があり、事業団の職員が君に何かを尋ねたとして、君が理路整然と説明できるかどうかは怪しい所であった。


 ──でも、なんだかこう、なんだか、なんだよなァ~


 なのに君は余り気がすすまない。


 自分とだけ会話できるからいいんじゃないか、などという非合理的な事を考えてしまう。


 その時ふと君の脳裏を過ぎるものがあった。


 これまで深い関係にあった者達の事だ。


 特に、男女の関係にあった者達の事である。


 どの恋でも、君は何か自分自身でも不分明な一線を引いていなかっただろうか。


 この一線をこえたならば、好意の天秤が自身の側にふれるというようなそういう一線だ。


 常に相手の心へ自分という楔、欠片を残す様にしてきたのは何の為だろうか。


 自分という存在を相手にとって掛け替えのないモノにしたかった、そんな子供じみた思いが無かったと言えるだろうか。


 ドエムは自分としか会話できない、それは自分に不利益を与える事になるかもしれないが、自分との関係性をより強める為の鎖となりうる……そのようなひねた考えがある事を君は余り認めたくはなかった。


 最安価のガイドボットなど、言ってしまえば消耗品だ。そんなモノにですら君はつまらない事を仕掛けようとする。


 君はそんな自分がまた少し嫌いになり、再び空をみあげた。


 巨大な化物エイは君のことなどどうでもいいという風に頭上を通りすぎ、東の空へ消えていった。

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