第18話 惑星C66、次の星
◆
「それにしてもやっぱりああいう連中でも惑星開拓事業団にはビビるもんなんだなァ」
君はごち、ベッドに寝っ転がってタバコを加えた。君はもう毎日100本タバコを吸おうと一切健康を害さない体になってしまったのだが、こればかりは習慣である。
「まあ仕方ねえか。事業団は宇宙ヤクザみたいなもんだからな。
君は面白いと思ったネットの言説をすぐ信じてしまうが、面白さというのは永続的なものではない。だから飽きたら信じるのをやめる。そんな自分の"軽さ"を、君はこれぞ臨機応変であると自画自賛している。
とまれゴッチ・ファミリーはここらの元締めなのだが、惑星開拓事業団はここらの星系の元締めであるためビビるのも無理はない。
人権侵害をも辞さないゴッチ・ファミリーと惑星攻撃をも辞さない事業団ならば、後者のほうがおっかないのだ。
「連中、そういえばホテルへ入ろうとはしなかったな…」
これにも理由がある。
このホテルはオンボロでしかも臭いが、惑星開拓事業団が所有する物件である。
だからゴッチ・ファミリーのアロンソも勝手に踏み入る事は出来なかったと言う事だ。
また、ペイシェンスの柄を攫ってしまうというのも中々難しい。
彼が事業団員だからだ。
安い消耗品…例えば100クレジットのライターの様なものだったとしても、それを部外者が盗む、壊すなどをしたら「舐めてるのか」となるし、話がこじれれば血が流れもするだろう。
君は次の調査の計画も頼むよとドエムに告げた後、伝言の事などすっかり忘れてベッドに横たわった。
眠るわけではない。
ただぼんやりするだけだ。端末はドエムが調査計画を立てる為に占有してしまっており、残念ながらこの部屋にはテレビジョンの一つもない。
──ラジオくらいはあってもいいかな。中古ならそう高くはない筈だ
君はそんな事を思い、ぼんやりとドエムの丸みを帯びたボディを眺めた。
君の長所の一つに、"何もしない"が出来る…というものがある。
目を半目にし、焦点をボカして口を半開きにする。そして全身脱力し、自分という存在が空間に少しずつ溶けていくような感覚を意識するのだ。
これは禅に於ける瞑想技術を応用したもので、官憲に逮捕されて取り調べをされる際、
ちなみに君に限らず、前科が2犯以上ある者は大体この技を扱う事が出来る。
◆
『ィ縺?>縺セ縺』
『ィ縺?>縺セ縺!』
『……ィ縺?』
『ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ縺ィ』
ギュギギッギギュガガとしか聞こえないドエムの声は、君の耳には聖歌隊所属の少年の妙なる調べに聞こえる。君の耳は神経を逆撫でするような不快な音を自動でシャットアウトし、耳障りの良い音へ変換してくれるのだ。
君は目をぱちくりさせ、ドエムの方を見て言った。
「なんだい?起きろって…寝てたわけじゃないさ。それでどうしたってんだ?…え?客?」
君がドアの方へ視線を向けると、控えめなノックの音が響いた。
・
・
・
「やぁ、ペイシェンス、おはよう。何か用かい?」
「お帰りケージ、ええと、ちょっと話があるんだ」
ペイシェンスが鼻の穴をヒクつかせて君に言った。
──ピギー星人が鼻の穴を細かく痙攣させる時は大抵ネガティブな話題だ。何の話だ?金か?金は貸せない。それとも金がないからって
ここへきて君は伝言の事を思い出した。
「うん、ケージ。ちょっと聞きたい事があって…。ケージはさっき帰ってきたんだよね? 調査お疲れ様…それで聞きたい事っていうのは、その、ホテルに帰る時に誰かと会ったりしたかな…って」
ペイシェンスの言葉に、君は先程の事をそのまま話した。
「そっか……わかった、ありがとうケージ」
ペイシェンスは礼を言い、去っていった。
どう見てもトラブルに巻き込まれているのは明らかだったのだが、君は黙してそれを見送る。
この時君の脳裏には幾つかの集金パターンが浮かび上がっていた。
一つ、ペイシェンスが抱えるトラブルに介入し、その解決の手助けをする。この場合、ペイシェンスからの礼金は大して期待できないだろう。更に、ゴッチ・ファミリーから敵視される可能性が高い
二つ、ペイシェンスが抱えるトラブルに介入し、彼を追っているだろうゴッチ・ファミリーに身柄を引き渡す。この場合、相応の額が期待できるかもしれないが惑星開拓事業団員をハメたとあれば自分はどうなるのか?
三つ、ペイシェンスが抱えるトラブルに介入するが、トラブルの解決は度外視。取り合えず揉めて暴力沙汰に持ち込み、惑星開拓事業団員というバックを利用してゴッチ・ファミリーから慰謝料をせしめる。この場合、ゴッチ・ファミリーから多少は敵視されるだろうが事業団の看板が報復から護ってくれる。コツはあくまで被害者というていを装う事、そして偶然トラブルに巻き込まれたていを装うことだ
君はそこまで考えてから思考を放り投げた。
よくよく考えてみれば、どの案を取るにせよ面倒くさそうだし時間も取られそうだからだ。
「素直に働くのが一番ってことだなァ。そうだろ?ドエムちゃんよう」
君はそんな事をいい、ドエムのボディを撫でまわすと…
『!!!!!』
高い金属音。
鋼板を鉄の爪で掻きむしったような音だ。
まあ君の耳にはまた別の音として聴こえるのだが。
「邪魔をするなって? ごめんごめん。大人しくしてるよ。ああそうそう、リクエストがあるんだけどさ。次はそうだな、綺麗な所がいいな。あんまり辛気臭いのは避けてくれよ。雄大な自然とかでもいいぜ」
君の言葉にドエムはモノアイを青く光らせ、コードで接続された端末にいくつかのコマンドが送られる。
そして……
「おおっ…!ホログラフィックか。そんな事も出来たんだな」
君はちょっと驚いた声をあげて端末から照射されたホログラフィックに見入る。
君の目に飛び込んできたのは空に広がる青、そして地に広がる緑だった。
惑星U101、分厚い水の膜で覆われた奇妙な惑星である。
惑星の各所に巨大な水の柱が屹立し、地中からくみ上げていると見られる水を天高く逆流させている。
その水が恐らくは水の膜の供給源なのだろう。
そして、空からは絶え間なく水泡が降り注ぐ。
これが地に染み込み、水柱の水源となっているというのがこれまでの調べで分かっている。
居住適正ランクはB。上から二番目だ。
この惑星のテラ・フォーミング計画は既に進行しており、幾つかの企業が拠点を建設して惑星開発の橋頭保としようとしている。
君のここでの仕事は拠点適正地の選出となる。
惑星一帯を調査し手頃な土地を見つけ、その座標を記録する。
多ければ多い程良い。
何せこの惑星は大きいからだ。
半径にして約7万km。これは惑星
ただしこれまでの調査で奇妙な原生生物も確認されている事から、その対処についても気を払わねばならない……
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