第16話 惑星K42⑤(了)
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君はドMを膝に置き、その丸い金属球ボディを何か妙な手付きで撫でまわしながら星々の大海に目を向けていた。ここは船、"棺桶号"の操縦席だ。君はすでに帰路についている。
調査の成果はろくにない。精々が数握の黒黴だけ…
成果はろくにないが、ドエムがいう所では "まぁこんなもんです" との事なので君は特に心配してはいなかった。
一応努力はしたのだ。
だがあれから君はあちらこちらを走り回るも、黒黴は君の目の前には姿を見せようとはしなかった。
──礼だっていうなら逃げたりせずに、がっつり俺にとっ捕まってくれよな
そんな事を思いながら、散文的な様子で窓の外を見ていると…
「……お?」
特に何を見つけようとしていたわけではないが、君は暗黒の虚空の果てに何か光るものを見つけた。一つではない、複数の光点がゆらゆらと揺れ動いている。星ではないし、宇宙船でもない。
「星じゃあないなあ、距離もちょっと遠すぎるか…」
君がボヤくと、そのボヤキに応じる様に膝元からギゴゴガビガビガという不協和音が響く。
ドエムが"自分に見せろ"と言うのだ。
だから君はハイハイとドエムボディを持ち上げ、窓の外を見せてやった。ドエムのキュートなモノアイはちょっとした天体望遠鏡顔負けの倍率を誇るのだ。ドエムは格安ガイドボットだが、惑星の環境調査に必要な最低限の能力は備えている。
これがもっと高級なモデルとなると戦闘能力を備えていたり、変形し、飛行ユニットとして活用出来たりもするが、ドエムは調査・解析しか出来ない。
当初君は金にモノを言わせた金満ロボットを…と思っていたのだが、今ではこのままでいいかななどと思っている。金の問題もあるのだが、人とかけ離れた容姿だからこそ上手くやっていけるんじゃないかという思いもあるのだ。
はっきり言語化できているわけではないが、生来のかんぐり屋である君は、理解をしよう、理解をしてもらおうという気持ちそれ自体が不和の始まりではないかとうっすら考えている。
──お袋は俺に遺伝病がある事を"理解"しようとして、できなかった。だから捨てられたんだ
いつだったか、君は雨の日にそんな事を思いながら安酒を呑んでいたものだった。
ハナから自分とは違う、だから理解なんてそもそもしようとは思わない。
素のままキのままでいいではないか、それで合わなければそれまでの話。理解も期待も、自分の理想の押し付けに過ぎないのだ…などという、どこか斜に構えた考えを君は持っている。
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ギギャギャギャギャというような聞くに堪えない音が鳴り響くが、その不協和音は君の
『縺上r縺翫%縺ェ縺?◆繧↑↑』
「はあ、宇宙クラゲ?初めてみるなあ。なんでクラゲが宇宙で生きていけるんだろうな…」
宇宙クラゲという文学的センスが失調している者が名付けたとしか思えないソレは、恒星間生物の一種だ。
宇宙空間を海と見立てて漂う生物である。
彼らの体は透明でゼリー状の質感を持ち、太陽光を受けると幻想的な光を放つ。この生物は大きさに幅があり、小さなものは数メートル、大きなものは惑星大の個体も存在する。
彼らは恒星間をゆっくりと漂いながら生きており、特に方向性を持たずに動くことが多い。
宇宙クラゲは主に宇宙線や微細な宇宙塵をエネルギー源として利用していると考えられているが、詳しい事は何もわかっていない。
これを捕え調べた者もいるのだが、何もわからないのだ。
分かった事はただ一つ、この生物の肉体組成は普通のクラゲに過ぎないということだ。
それでなぜ宇宙空間で生存できるか…それは謎である。
「お偉い学者サン連中も色々調べてるらしいけど、分からない事が多すぎて結局放置気味らしいね。なあドエムはどう思う?ああいう妙な生き物はなんなんだろうな」
君は赤子を持ち上げるようにドエムを持ち上げて尋ねる。
ドエムがギギゴベゴベゴと答えた。
これは共通言語に翻訳すれば「さぁ」と言ったところか。
君はアッソウ…と適当に答えてのんびりとクラゲと思しき光点の群れを見つめ続けた。
──クラゲって脳がないんだっけか。じゃああれだけ集まってても誰が誰だか分かってないんだろうな。何となく集まってなんとなく宇宙を泳いでいるわけか
君はフッと僅かに笑う。
その何とも頼りないふわふわした生き方と比べて、自分のそれ…というより人のそれは果たしてどうなのか、と思ったのだ。
上等なオツムを持ちながら宇宙のあちらこちらで陰謀だかなんだかをアレして、そこから生まれる幸福の総量と不幸の総量を比べれば後者のほうがやや上なのではないか?
君は柄にもなくそんな事を思う。
「あ~、くらげになりてぇー。色々面倒くせえよ、な、ドエム。適当に生きてるだけじゃだめか?」
『縺吶°』
これを翻訳するなら、"だめかも" と言った所だろう。
◆
宇宙は広大で謎だらけで綺麗なモノが沢山あるが、危険なモノも沢山ある。
君がはるか遠くに見遣った光点は宇宙クラゲの群れである事に間違いはないが、この幻想的な生物は単一種ではない。
一般的なクラゲに有害なものと無害なものがあるように、宇宙クラゲにも有害なものと無害なものがあるのだ。
君が見つけた群れは前者である。
別名を "船喰い" と呼ばれるこのクラゲは催眠作用のある光を発して、獲物を引き寄せる。
その後まんまと寄ってきた宇宙船を取り込む様にまとわりつき、外装を融解させ、船ごと捕食してしまう。
君も生身ならばこの魔の誘引から逃れる事はできなかっただろうが…今の君にはこの手の精神汚染は通用しない。少なくとも生物由来の催眠発光などは情報として君の目に飛び込んできた瞬間に解析・分析され、無害なものにバラされてしまう。
君のこの機能は惑星U97…小竜巻が群れをなし、夜間は美しくも恐ろしい寄生樹がそこかしこで胞子を飛ばす最悪な星でも役に立ったが、元はと言えばハニートラップ対策の為のデフォルト機能である。
権力者の類に差し向けられる超高級セクサロイドはその実践的な技術もさるものながら、薬物や特定の発光パターンその他諸々でインスタントにたぶらかそうとしてくる事もあるのだ。催眠・洗脳対策は権力者の義務とも言える。
君に施された術式は精神面での致命的な欠陥が無ければ、いわゆる富裕層、支配者層へ施される
「やっぱり遠いなあ、なあドM、写真撮れる?見れるんだろう?俺にはちょっと遠すぎて眼を凝らしても見れないけどさ。もし写真撮れるなら頼むよ、記念にね。パシャってさ。ほら、ぱしゃ~ってさ」
君がドエムにいうと、ドエムはギャギャギャギャと応じる。
ぱしゃり。
シャッター音は君が口で言った。
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あっさり目ですけど、黴惑星はおしまいです。
フォロー、★評価してくれてる人ありがとうございまーす。
フォローしてくれてて評価はまだしてないって人もありがとうございまーす。
両方してくれてない人は…ありがとうございません!嘘です、ありがとうございまーす。
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