第13話 惑星K42②
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惑星K42はキラー惑星として認識されており、生身の生物にとって非常に危険な星だ。
基本的にどこだって危険な事はあるのだが、キラー指定されている星は特に危険なのだ。
まず、キラー指定されるためには原生生物や惑星環境の大半が人類に敵対的でなければならない。
これはどういう事かというと、例えば戦場などではキラー指定はされない。
なぜなら戦場には敵だけでなく味方もいるためである。
ではどういう場所がキラー指定されるかといえば、例えば法秩序下にない46,755平方メートルの空間に、10万組の愛し合う夫婦なり親子なりを詰め込む。
この広さだとかなりぎゅうぎゅうだ。
そしてそれらの夫、もしくは妻、親子の場合なら子供を一人の暴虐な重犯罪者に出来るだけ残虐な手段で殺害させるとする。
こうなれば当然遺族は激発し、遺族は重犯罪者への復讐を誓うだろう。
その上で空間の出入口を閉ざし、復讐の炎に燃える者達がぎゅうぎゅうに詰め込まれている空間に彼らの仇を叩き込むのだ。
血の宴が始まる筈だ。
一般的にはこの程度に周辺環境が敵対的な惑星をキラー惑星と呼び、惑星の名称の頭にKを付与するのである。
さて、肝心の惑星K42だがキラー指定されているのはひとえにこの惑星の全域に、かつ高密度で広がっている黒黴が理由だ。
光と水さえあれば生きられる筈のこの黒黴は、なぜか有機体を餌として異常に好むという特性を持っている。
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と言う様な説明をドエムから聞いた君は顔を顰めて不満を言った。
「俺だって生身の部分が無いわけじゃないんだぜ」
確かに余り多くはないが、あるにはある。
すると膝の上から不協和音が聞こえてきた。
「え?熱?上昇?あー…まあ、そうだな、出来るよ。俺の取説はしっかり読んだし。はあ…それでいいのかい?仮にもキラー惑星なんだろう?え?眼も見えなくなった素手のヤク中と武装した宙賊?そんなの宙賊のほうがおっかないに決まってるじゃないか…って、ああ、そうか。キラー惑星界隈にも格差があるわけね。だから俺みたいな新米でも受けられるわけか」
君の言葉に、ドエムはよくできましたとでもいうように軽く身を震わせた。
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空は黒い雲に覆われ、僅かな光が地表を照らし出している。
地表は、シンプルに言えば "地獄" だ。これは些か文学的センスが失調した表現ではあるが。
しかし世の中巧が良、拙が悪とは限らない。
黒く光沢のある岩石が所々に見受けられるが、この岩をよくよく観察すればそれが動いていることに気付くだろう。
地表を這い何かを求めるかのように蠢動している。
動きは鈍重だが、それは獲物を油断させる為の罠である事は明白だった。
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そんな光景を、上空を飛行中の船に乗った君が見ている。
両の眼を僅かに青く光らせて、君はまるで黒黴の間近に立っているような距離感で地表を眺めていた。
「ほん」
君は短い感想を漏らす。
声色には "まあ悪くないかもね" というような感情が乗っていた。
当初は黴と聞いて辛気臭くて地味だから気が進まなかった君なのだが、地表全域に広がるかのような黒黴の楽園を見て少し考えが変わったのだ。
商品の、といきなり言い出す君に、ドエムがモノアイを明滅させて先を促す。
ガイドボットは基本的に所有者の話をしっかり聞いてあげるというヨシヨシ機能がついている。
これは孤独の毒から所有者を保護するための重要な機能だ。
ともあれ、君は先を続けた。
「商品の陳列ってあるじゃないか。ああいうのはさ、同じモノを沢山ズラーッと並べるとそれがどんなに酷いものでも綺麗~に見えるそうなんだ。あの黴もこれだけいれば何だかちょっと圧巻に見えるなって思ったんだけどどう思う?大自然って感じがするよな」
そんな事を言いながら、君は機窓の外に広がる黴達の楽園をなおも注視する。
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ちなみに君には一つ、体をいじくられて良かったと思う点があった。
それは眼だ。
生身であった頃の君は無虹彩症という遺伝病を患っていた。
症状としては虹彩の欠損の為に眼に入ってくる光量の調節が上手くできないというもので、まあ下層居住区民としては然程珍しい疾患でもない。
見た目は瞳孔が大きくみえ、眼が真っ黒に見える。
これが余りよくなかった。
外見の印象で、目の印象はかなり大きな部分を占め、そして目が真っ黒の者というのは端的に言って不気味であり、それが理由で君としても大なり小なり不利益な被ってきた悲しい過去がある。例えばゴミの日にポイとされたりと言った事だ。
生来、運が良いのか悪いのか分からない君ではあるが、赤子であった頃は奇特な外星人に育てられ、下層居住区民の基本的な嗜み…良いヤクと悪いヤクの見極め方、売り先、治安維持隊の買収方法など…を叩き込まれてなんとか生きてこれた。
まあその育ての親自体は既に故人だが。色々あったのだ。
君にせよ楽な人生であったわけではなく、やはり色々あった。主に目のせいで。
外星人も多く住むこの星で何を目の一つや二つという向きもないではないのだが、外星人達は先天的な異形であって、君の場合は遺伝的疾患である。これは受け止められ方が大きく変わってくる。
だが今や君の目は猛禽類のそれと遜色ない程にカスタマイズされており、しかも光るのでとても気に入っている。
やがて、君の視界の向こうに白と黒のコントラストが印象的な、大きな山が見えてきた。
「ああ、なるほど。黒黴は中腹あたりでとまってるな。ドエムの言う通り、高い所が苦手らしいなぁ」
君の呟きにドエムのモノアイが赤く1度、2度と明滅。
「分かってるよ、苦手って言っても "餌" があれば群がってくるっていうんだろ?」
明滅のパターンからでも君は何となくドエムの言いたい事が分かった。
それは本来あり得ない事なのだが、まあ機械の体だしな、と君は軽く考える。
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船は山頂に着陸し、君もまた惑星K42の地に降り立った。
まるで海の様だ。
黒い海面が揺れている。騒めいている。
有機体が触れればたちまち群がられて貪り食われる死の黴群をみて、君はそう感じた。
同時に、もう一つ。
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──なんかこの黴、ソワソワしている様に見えるんだよなぁ
特に何の根拠もないただの勘である。
「まぁ、気のせいか」
だが、君の勘は君自身が誰よりも信頼していない。
あの大敗以前はある程度信頼がおけるものだったが、あの大敗北で君は自分の勘を見切ってしまっていた。
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