第12話 惑星K42①

 ◆


 翌日の朝…というか、早朝。


 君はしっかりした足取りで襤褸ホテルへと戻った。酔いもしない酒で一晩明かした君には些かの酔いの気配もない。


 勿論、ヤってもいない。


 しかし思った以上に話が弾んでしまい、午前様となってしまったのである。


 というのも、君はチェルシーに会うのが随分遅れてしまったわけなのだが、これは君にちょっとした考えがあったからだ。


 これでいて君は見栄坊な所がある。


 色々な面で世話になった元カノに金を返す…更に顔出しするならやっぱりちゃんとした身の上で会いにいきたかった…という見栄があった。


 久々にあった元彼と元カノが会うのだ、話はもうボヨンボヨンと弾むに決まっている。


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 ベッドの上には金属球…ドエムが鎮座しており、端末と接続して何かをガチャガチャとやっていた。君はそれをちらりと見ると、端末には近隣の星図と思しきものが表示されている。


 君は事もあろうに、今後の調査依頼のスケジュール作成の全てを任せ、必要な物資の購入から何もかもを任せたのだ。


 君は "全部頼むぜ、ママ" などと言いながら、ドエムを抱えて枕元へ移動させた。布団のど真ん中にドエムが置いてあると寝転がれないのだ。


 君に睡眠時間はほぼ必要ないが、君はあえて睡眠に似たものを取るようにしている。


 睡眠に似たものというのは詰まる所、低機能モードだが、このモードはその名の通り消費エネルギーを大幅に削減できるのだ。一応理屈では半宇宙世紀(500年)ほどは生存できる事になっている。


 まあちょっとした光からでも膨大なエネルギーを生産できる君にとっては余り意味がない。あるとすれば、僅かな光も差さない暗黒の空間に監禁された際くらいだろうか。


 仰向けに寝転がり、ヤニをぷかぷかと吹かす君。


 しかし、喫煙が齎すリラックス効果は君には全くおとずれない。


 というのも、発がん性物質がたんまりと含まれている有害で有毒でクソみたいなヤニ煙は君の肺に吸い込まれるまでには完全に無害な水蒸気と化していたからだ。この間、1秒かかっていない。


 これが君にとっては物凄く詰まらないのである。


 君はこれでいて救いようがない性格をしているので、不健全な事は楽しい、体に悪いものは美味しいという末法的な事を考えている。


 その君からして、新しい体というのはどうにも面白くないのだ。自分がどうにも爪先から血も汗も涙も通わぬ鉄人形へと変わって行くような気がしてならない。


 君が生身の頃の悪癖をやめようとしないのは、この君が言う所の "人形化" を避ける為でもある。


 科学的な根拠はどこにもない。


 ないのだが、君は筒を想像するのだ。


 その筒には人間性がパンパンに詰まっている。


 しかしその筒の向きが変わってしまった。ガチャコンガチャコンと体をいじくられた事で筒の向きが横向きから縦向きに変わってしまったのだ。


 このままでは人間性がずるんと落ちてしまう。


 ずるんと落ちてしまえば君はどうなるか。


 物言わぬ人形になってしまう…と少なくとも君はそう思っている。


 それを防ぐ為に、君は筒に "返しの棘" をつけるのだ。


 それらは飲酒癖だったり喫煙癖だったりする。まあ悪癖に限った話ではなくて、例えばろくに眠る必要がないのに寝たような真似をしたり、食事が必要なわけでもないのにちゃんと一食は食べるというようなあれもこれも "棘" の一つである。


 まあ全部君の想像上の話なのだが。


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『@繧?→縺?m縺上r縺翫%縺ェ』


「オーケー!出発は2時間後だな、随分急じゃないか、全然問題ないぜ!で、荷物はいつ頃届くんだい?」


「″縺ゥ縺?@」


「なるほど、0分04秒後か!ウケる。もう来るじゃねえか」


 君が笑いながらそういうと、端末から電子音がぴんぽらぽんぽんと鳴り響く。


 不在通知だ。


 この惑星の配送業者は、なんというか不真面目なのだ。


 届け先が在宅でも取り合えず不在通知を送るという悪癖がある。


 不在通知といっても通知だけきて荷物が来ないというわけではなく、荷物自体は届く。


 届くのだが…この不在通知の意味する所はこうである。


『私は誠心誠意お客様へ荷物を届けようとしましたが、指定時間を決めたにも関わらずお客様は不在でした。仕方がないので荷物は玄関先へ置いておきます。荷物は既に私の手を離れた以上、その責任の所在もありません。よって、荷物が窃盗、破損したとしても一切の責任を負う義務をもちません』


 こう言う事だ。


 ふざけるなという向きもあるかも知れないが、一応事情があるにはあるのだ。


 この時代、ワープ航法のおかげで他星系からの通販も盛んで、配送業者はてんやわんやだ。妙にしぶとい下層居住区民などですら100人に7人は過労死するほどだ。幸い過労死者が下層居住区民と言う事で、社会問題にはなっていない。


 なおドローンの類は惑星C66では使用できない。特殊な磁場が形成され、電波が乱れてしまうのだ。


 ちなみに君もこの手のバイトをしたことがあるが、過酷すぎて30分程でバックれてしまった経験がある。


 生身であった頃の君はお世辞にも体力があったと言えず、バックレも致し方ないと言えよう。命は一つしかないが、配送員は沢山いる。無理をした挙句、過労死してしまうなんてとんでもない話である…だから仕方ないのだ、バックレは致し方ない…というのが君の論調であった。


 まあ君のこの無責任スタイルは、惑星U66の下層居住区民のしょうもな就業環境に於いては正しいものと言えるかもしれない。


 その位無責任じゃないと本当に死んでしまう。


 これは悲しい事だが、惑星U66の金を持っている連中は、金を持っていない連中の事を消耗品の代表たる100クレジットライターか何かだと思っているのだ。


 だから平気で使い潰すし、下層居住区民側も我慢の利かない者などはそんな仕事やってらんねえよと犯罪に手を染める。


 君は後者だ。


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 そして二時間後、君は肩口にふわふわと浮かぶ金属球(ドエム)を引き連れ、宇宙港へと向かっていた。


『↑↑↑◆◆ェ縺ェ縺ェェェェ縺ェ縺ィ縺?>縺セ縺。s縺輔∪縺ァ縺吶°。繧上◆縺励?縺ゅk縺ゥ繧√j縺」縺kk上@繧??縺溘s縺輔¥』


 これは耳で聞くと、『ギイイイイェェェェビイイイイイエエエエアアアアアアギエァアアアア!!!!』と聞こえるのだが、君にはなぜかドエムの言わんとする事が分かる。これはもちろん、普通ならわからないのだ。分からないから言語オプションは半ば必須となっている。しかし君はそれを忘れてしまったのだが、今の所は問題はない。


「え、48時間以内?なんでそんなに急ぐんだよ?…はあ、群がってきて取り込まれる?取り込まれると船を出せなくなるゥ!?機械は喰われないんじゃないのかい…取り合えず群がる?随分ハングリーだなあ。でもそれくらいじゃないとカビなんてやってられないんだろうね。でもそれだとどこに船を停めれば…あ~、なるほどね、山か。はあはあ、気圧が低いと嫌がるわけね。普段はわざわざ山になんか行かないけど、近くに何かあれば寄ってくるってわけか」


 君はドエムとそんな事をしゃべくりながら、船へと向かい…


 呆気なくハイパー・ワープが完了し……


「うわ。黒カビかよ、知ってるぜ俺。黒い黴はヤバいんだ」


 君の視界は無限に広がる暗黒の世界にぽっかりと浮かぶ、如何にも厄そうな真っ黒い惑星を捉えていた。




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黴星、チェルシーの画像は近況ノートに


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