第8話 惑星G1011②
◆
惑星開拓事業団の先遣隊は、惑星G1011についてこう報告している。
『この星の空はまるで硝子のような物質が降り注ぐ奇景を見せている。雨は地に落ちても砕けることがない。また大気に毒性はなく、3日間の滞在中に敵性生物との遭遇もなし。居住適正ランクをBと定める』
この雑極まる無能な報告は、これはこれで価値がないわけでもなかった。
少なくとも、惑星G1011は宇宙船が着陸できる程度の環境であることや、降り立った瞬間に何らかの宇宙的パワーで内臓が穴という穴から噴出したり、強力な毒性を持つ大気の為に防護スーツの防衛機構と突破して体がデロデロに溶けたりという事がないと分かるからだ。
ちなみに居住適正ランクBとは上から二番目の評価である。
君が住む惑星C66は地球に酷似した環境であり、居住適正ランクはAとなっている。
ただ、この居住適正ランクは普遍的なものではない。
あくまでも君の様なアースタイプ基準のランク分けであり、異なる肉体組成を持つ外星人にとってはまた事情が異なってくるだろう。
星系が異なれば常識も異なるのだ。
だが惑星開拓事業団はこの"常識"を全銀河へと広めようとしている。
彼らの背後には地球連邦という巨人がおり、その巨人の指先からは見えざる糸が垂れさがっている。
そして、この糸の先が惑星開拓事業団にあることは暗黙の了解であった。
まあ、君にとってはその辺は関係のない話なのだが。
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のんべんだらりと惑星G1011を眺めていた君だが、一瞬、息をのむ。
「なんだぁ…?」
遥か遠く、惑星G1011の後方に何かがうねっている。
それは蛇のようにも見えるし、芋虫の長躯にも見える。
ともあれ、大きい。
その大きさは、遥か遠くに見えるにもかかわらず、星ほどにも思えた。
君はコンソールを叩き、その蛇らしきモノを拡大表示する。
君の感想は、虹色宇宙芋虫…であった。
大きく長い虹色の芋虫が宇宙空間を遊泳しているのだ。頭部の触角…触手は絶えず揺れ動いており、何かを探しているようにも見える。
「うへぇ、恒星間生物ってやつか。初めてみたぜ…」
恒星間生物とはその名の通り、宇宙空間を生息地とし、星から星へと渡る生物である。
宇宙は広く、星など全くない宙域も珍しくないのだが、そういった宙域では発見例がない。
大きさはまちまちで、小型の宇宙船程度のサイズのものから惑星に匹敵する巨大なものまで存在する。
更に驚くべきことに、これらを超える規模を持つ生物の存在も確認されている。甚だしく信憑性に欠ける話ではあるが、銀河一つを丸のみにしてしまったという馬鹿げた恒星間生物もいるという話も宇宙男どもの間ではまことしやかに語られている。
こういった恒星間生物の習性はその生態の多くが謎に包まれたままだ。
一部の科学者はこれらの生物が星間物質をエネルギー源として利用しているのではないかと推測しているが、確固たる証拠はまだ見つかっていない。
また、これらの生物がどのようにして宇宙空間を移動しているのか、あるいはどのようにして生殖しているのかについてもほとんど知られていない。
「折角だから記念に…」
君は再びコンソールを叩き、その恒星間生物を記録に納めた。
パシャリ。
そうして、そうこうしている内に "棺桶号" は惑星G1011の重力圏内に突入した。
着陸まで後わずかだ。
頭部保護の為のヘルメットを被り、君は着陸を待つ。
◆
宇宙船 "棺桶号" から一歩足を踏み出した。
君の視界に広がるのは惑星G1011の夜の光景だった。
地表はまるで透明で硬い岩のような物質で覆われており、その表面は星々の光を反射してきらめいている。
空には無数の星が輝き、どれもこれもが一等星かそれ以上に輝いていた。この星の大気組成が、星の光をダイレクトに地上に届ける役割を果たしているのかもしれない。
周りには硬質で透明な岩のような物質がゴロゴロと散らばっており、君はその一つを手に取ってポーチへと仕舞う。
今回の仕事は"これ"を出来るかぎり収集するというものだ。ポーチへ入れたのはくすねる為である。惑星開拓事業団はブラックだが寛大な組織なので、こういった業務上横領をある程度は見逃してくれるのだ。
ある程度は、だが。
「雨なんか降ってないけどなあ…」
君は空を見上げるが、雨雲らしきものは見当たらない。折角ヘルメットを買ったのに、と君はやや不満そうな表情をうかべるが…
まあいいか、と君は端末を取り出して恒例の記念写真を撮った。
パシャリ。
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この辺はいつものように近況ノートへ画像をあげます
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