第8話 12歳、新しい力

 12歳になった。

 巻き戻ってから、2年が経った計算だ。


 俺は順調に強くなっていた。

 今日は、森で盗賊狩りだ。


「おいおい、なんだぁ……てめぇらは?」


 北からやってきた盗賊たちの前に、俺は立っている。

 俺のすぐ横にはいるのはアニラだ。


「正義の味方っぽいものだ。死んでもらうぞ」


「へっ、へへっ。笑わせるじゃねぇか。人数差、わかってるのか?」


 盗賊は30人近く。さらに武器もかなり良く、魔力持ちもそこそこいた。

 これだとベテラン冒険者でも勝てないな。


 俺にとっては雑魚だが、放っておけばウチの領民に被害が出る。

 なので、俺が直々に来たわけだ。


「能書きはいいから、さっさと来い」


「泣く子も黙るネコソギ団に、いい度胸だ! ガキだからって容赦しねぇぞ!」


「はぁ、言葉にセンスがないな」


 俺はひらひらと手を振る。


「もういい。死ね」


 俺は無慈悲に時空魔術を展開する。


『世界よ、断ち切れ』


「あばばばーーーっ!!」


 盗賊は瞬時に全滅した。

 後ろに控えているアニラが前に出る。


「お見事です、ヴァル様」


「ふむ……しかし最近、本当に盗賊が多いな」


「運命律が、激しく動いています。有象無象は乱され、流されることでしょう。こうした連中は、もっと増えると思います」


 アニラの口調は相変わらずだが、体つきが変わってきた。端的に言うと、かなり胸の成長がよろしい。顔つきも可憐な度合いが増してきた。


 少女から美少女へ。それが今のアニラだ。


「ナイツ・オブ・ラウンドがなかったら、ぞっとするな」


 ここ半年で、北は危ない情勢になってきた。魔獣の増加、それによる治安悪化。そして盗賊が続々と出現などなど……。


 リオン公爵領は万全だが、他の周辺貴族はすでに限界だ。ヤバいところだと、あと1年か2年で実質的に崩壊する。そのレベルなのだ。


「ヴァル様が、組織を認めてくださったおかげです。戦力増強に情報網……それに、難民の受け入れ。どれもすぐには出来ません」


「だが、現状では後手に回っているだけだ。北へもっと活動を広げないとな」


 元の未来では、魔王は北の果てに本拠地を構えていた。それがどれくらい北なのかというと、馬車で片道150日以上のはずだ。あまりに遠い。


 なので、本拠地の手前の国々に活動を広げるしかない。そこで防波堤を作り、魔王を防ぐ――というわけだ。


 勇者に殺されるのは嫌だけど、魔王に世界を征服されるのも嫌だ。魔王が人類の敵であるのは、もう学んでいるしな。


「もう少し、移動を楽に出来ればと思うのですが……すみません」


 アニラがへにょっとする。


「仕方ない。飛行魔術を使えるのが、俺たちだけなんだからな」


 フィリアから飛行魔術を習い、こうして盗賊狩りをしているのだが……もっと効率性を高めないと、いずれ身動きがとれなくなる。

 

 やれやれだ。


「北の聖教国には、スクロールとか便利なモノがあるそうだが……」


 元の未来では、結構便利だったスクロール。魔術を封じ込めてあり、魔力を込めると、封じ込められていた魔術が発動する。


 しかしこの辺りではかなりの貴重品で、元の未来でも数回しか使ったことがない。

 でもアレを量産できれば、かなり便利なんだけどな。


「そ、それをどこで……っ!?」


「ん? いや……」


 アニラがびっくりするので、俺は言葉を止める。


 あれ……?

 スクロールは北の聖教国で作られてるって魔王の手先から聞いたが、もしかして秘密の情報だったのか?


「……知らなかったのも無理はない。しかし洞察力を磨けば、わかるはずだぞ」


「そ、そうですね……。ああ、北の国でしかスクロールは出回ってなくて、どこで作っているのか疑問でしたけれど……!! まさか、ヴァル様はすでにご存じだったとは」


「ハハハ……アニラ、もっと勉強が必要だな」


「はい! でも、これで魔王因子の収束に歯止めが――」


 ぶつぶつぶつ。アニラは新しいことに直面すると、こうなる。

 まぁ、でも真剣に考えている美少女は可愛いけどな。


「しかし本当に――家から瞬時に、移動出来たらいいのにな」


 俺は右腕を伸ばし、何もない空間を撫でる。

 時空魔術は、まだ切断しか使えない。


 もっと色々なことが出来るはずだが、まだ俺には出来ない。


 移動、移動、移動。

 どこにでも、とは言わない。

 せめて行ったことのある場所に、ぽーんと行き来できたらなぁ……。


「ああ、いや……そうか」


「ヴァル様?」


「ちょっと待て。ふむ……」


 フィリアも時空魔術については、知識がなかった。結局、新しい時空魔術は俺が見つけなければいけないんだとか。


 むしろ俺の作ったものが、時空魔術になるんだとフィリアは言った。


 例えば、すぐに屋敷へ戻りたい――俺の望みをそのまま術式に反映したらどうなるだろう。俺は魔力を展開し、組み立てる。


「こ、この術式は……ヴァル様の新しい魔術……!?」


 もちろん術式に望みを書き加えても、普通なら意味がない。魔術にはバランスがあり、容易に崩せるものではないからだ。


 しかし、努力してより魔力を扱えるようになった今なら、出来る気がした。


 イメージするのは、屋敷だ。屋敷の中……。

 俺はそこに行きたい。フィリアの元なら、なお良い。

 俺はイメージを術式に次々と重ねていく。


『世界よ、繋がれ』


 俺は本能のまま、魔術を展開させる。奇妙な青色の筋が空間に広がり、ひび割れていく。


「――できた」


「新しい、時空魔術ですか? まさか、即興で? 新しい術式ひとつ見つけるのに、何世代も必要なのに……!」


「多分、大丈夫だ。ちょっと待ってろ」


 青いひび割れ、扉の向こうは公爵家の屋敷だ。

 確信がある。まさか、1発で成功するとは思わなかったが。


 ドキドキしながら、俺は青いひび割れの向こうへ歩いていく。


 青い扉は――水の中を進むような感覚だ。でも息苦しくはない。


 俺はそのまま進む。まもなく、水中のような感覚が終わる。

 空気だ。空気の中に戻ってきた……。


 にしては、なんだか湿気がすごいが。蒸し暑くもある。

 ここは……屋敷のどこだ?  


「……ヴァル様?」


「あ?」


 大理石で出来た広い空間。ライオン彫刻の蛇口。

 それは、屋敷内にある女子専用の浴場だった。


 そして俺の目の前には、のんびりとお湯につかっていたフィリアがいた。


 俺はフリーズする。

 反応するのは、フィリアのほうが早かった。


「アニラとお出かけのはずでは……? まさかまさか、その魔術はもしかして!」


 目を輝かせたフィリアが、お湯から無防備に出ようとする。

 俺は慌てて顔を背けた。


「待て! 来たのは俺だが、服を着ろーー!!」


 ===========


 ヴァル、新しい時空魔術――『転移』を習得。


 よくイメージできる場所、よく知る人物の元に行ける。

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