第22話 娼館街ガーラ到着
ミーアを襲った突然の不幸。
どうやったって、死んだルカさんは戻って来ない。
だがせめて、娼婦として身体を売らなければならないその状況からは解放してやりたい。
俺は一旦家へと戻り、全財産を巾着袋へ入れると再び外へと駆け出した。
目指すはラグージュ領の中で最も娼館が立ち並ぶ街、ガーラ。
ガーラまでの道のりは乗り合い馬車で繋がっており、その所用時間は約四時間。
割と近い位置に存在する上に、夜行馬車で繋がっている為、明日を待たずにガーラに辿り着く事が出来る。
問題は、ミーアの行く先だ。
ラグージュ領の中にはガーラの他にもいくつか娼館街が存在する。
目的地をガーラに定めた理由は、カノン村から一番近く、最大規模の娼館街だからという、ほとんど勘に頼ったものだ。
さらに、ミーアが働くであろう娼館について何ひとつ情報を持たない。
仮にガーラで正解だったとしても、今度はそこに建つ娼館一軒一軒を全て見ていかなければならない事を思うと、ミーアに辿り着くまでに、それなりに時間を費やすだろう。
「クソッ! 待ってろよミーア、今助けに行く!」
焦る気持ちを胸に、俺はガーラ行きの馬車へと乗り込むのだった。
◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎
――ラグージュ領ガーラ街――
馬車から降り立った俺は辺りを見回す。
夜も更けた頃だというのに、人通りは盛んだ。
その者達の身なりからして富裕層、もしかしたら貴族も混じっているかもしれない。
言うまでもなく、その大半が男だ。まさに〝夜の街〟といった印象を受ける。
大通りを挟んで両側に娼館と思しき建物が軒を連ね、その付近には肩を出し、胸元を露出した何ともエロい感じのドレスを身に
そんな〝夜の街〟を照らすのは娼館から漏れ出る蝋燭の明かり。
そのオレンジが夜闇を悶々と照らす様は、妖しく、官能的で、思わず俺の中の男としての本能がくすぐられる。
だが、
「一体、何考えてんだ俺は!そんな事よりミーアの心配だろ!」
今は一刻も早くミーアを見つけ出し、出来れば貞操を守ったまま救いだしてやりたい。
というわけで、捜索開始だ。
――一軒目、
まず目の前の、比較的大きい三角屋根の娼館へと歩み寄る。
そして中へ入ろうと入り口付近へ辿り着いた時、
「あら。 お兄さん、遊んでいくの? 良かったら私が相手になろうか? ふふふ」
妖艶な笑みを浮かべた遊女に声をかけられた。
しかし、そんな彼女へ俺は手の平を向けると、
「いえ、結構です。俺には目当ての女の子がもう既にいますので」
と言って断った。
「あら、残念」
呼び込み遊女を振り切り、いざ建物内へと踏み入れる。
「いらっしゃいませ。ようこそ〝艶姫〟へ」
この娼館の店名は〝艶姫〟というらしい。どうでもいいけど。
声の主は、受け付けカウンターに立つ黒い服装の男だ。こちらへ笑みを送っている。
入ってすぐ、視線の先中央に受け付けカウンター。左右両側にはカーテンで隠された待ち合い個室のようなブースが連なるよう設けられており、閉まったカーテンと床の隙間から人の足が見えている。
順番待ちだろうか?
受け付けカウンターへと向かうと、黒服の男は視線を手元へと下げ、現在の空き状況を口にし始めた。
「えーっと……今現在ですと、ヨミが一時間待ちで、アズが二時間待ちですね。ドロシーとレイラなら今すぐご案内できますが、如何なされます?」
なるほど。アズとヨミが人気なのか。
そして、呼び込みをしてた遊女がドロシーかレイラで、待合個室の客はアズかヨミ目当てで待っているというわけか。
と、そんな雑念を抱きつつも、俺は俺でミーアの所在の有無を探っていく。
「今日からの新入りで小柄な14歳の子っていませんか? あ! あと、長い赤髪の子でお願いします」
ミーアの名前を出して変に警戒されてもあれなので、あくまで客としてオーダメイド方式で訊ねてみる。
すると、黒服の男はニコリと微笑んだ。
言ってしまった後に思う。
今伝えた細か過ぎる注文内容には怪しさ満載だ。警戒視されるのではと危惧したが、
黒服の男はどこか好意的な目でこちらを見てくる。まるで、
『初物好きな上に14歳。おまけに髪色、長さまで指定してくるあたり――お客様。 とんだド変態でごさいますね』
と、そんな目つきだ。
確かに、言った注文を真に受けるなら、俺は相当なド変態野郎という事になる。
成人が15歳と定められているこの世界なら14歳を指名する奴はあり得る。しかし、髪色と長さまで言ってくるような奴はそうは居ないだろう。
そんなマニアックなフェチズム精神が変態度合いに拍車を掛けているようだ。
「誠に申し訳ございません、お客様。当店ではお客様の希望されますような女性は在籍しておりません。 今後はお客様のような
と、黒服の男はそう勧めてきたが、
「いや、居なければ結構です」
と、即答。
てか、誰が
とりあえず、ここにミーアは居ないようだ。
一軒目はバツ。次、
――二軒目、
一軒目の隣で、同じく三角屋根。建物は一軒目より少し小さ目だ。
「今日が初日の14歳。赤髪、長髪、小柄な女の子をお願いします」
そして、同じくマニアックな指定。
すると黒服から「おぉ〜」と、感嘆の声が上がり、やはり先程と同じくして好感の眼差しだ。
え?何?
この業界での〝変態〟って誉れなの?
「私も長くこの業界にいますが、貴方様のような変態紳士は初めてお目に掛かります。大変素晴らしく、お客様のような御方にこそ、満足して頂けるサービスを心掛けてはいるのですが……無念! その要望と一致する女性は当店にはおりません。御期待に添えず申し訳ございません!」
「…………(いや、決して素晴らしくはないだろ)」
というわけで、二軒目もバツ。はい、次。
――三軒目、
「何と! 凄まじい変態ぶりなのでしょう――」
ここでも同じ。
黒服の感嘆の声が店内に響き渡る。
「――そんな貴殿へ、当店とっておきの新人をご案内しましょう!」
お!新人か!!
初めてミーアに届くかも知れない情報に俺は固唾を飲み、続く黒服の言葉を待つ。
「――残念ながらご要望の赤髪ではございませんが……」
チッ!
次へ行こうと、そう思って踵を返そうとしたその時――
「青髪、ショートヘアーの17歳……」
黒服の口から出たその特徴に思わずピクっとなった。
俺は導かれるように再び向き直ると、黒服はニヤリを笑みを深めていた。
「どこかあどけなく、可愛いらしく整った顔貌で、しかも何と!貴族家に仕える現役メイドでこざいます! どうですか?お客様?」
――ほうほう。なるほど、なるほど。
青髪ショートカットに可愛い系の顔貌。そして、メイドか……。
それって、もしかして……
「――鬼族ですか!?」
「は?」
黒服はポカンとした顔で、
「
アニメ好きの俺が推す最強ヒロインの特徴とあまりにも一致していた為に思わず食いついてしまったが、冷静になって思い出す。
この
この世界での
姿かたちは筋肉質のデカブツで、ただの化け物。可愛くも何ともない。
というわけで、今度こそ踵を返し、退店すると次の娼館へと行く。
◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎
「いやー!清々しい程の変態ぶり!! そんな変態紳士様には当店自慢の――」四軒目バツ。
「え?14歳で赤髪で小柄? いやー。驚くべき〝変態〟ですね。そんなお客様には先日から体験入店中の――」五軒目もバツ。
「当店は人妻専門店でごさいますので――」六軒目もバツ。
まさか、ガーラではなかったのか……そんな焦燥感が湧いてきた頃、
七軒目――遂に、
「えぇ。本日よりデビューいたします新人がまさに、赤髪長髪の14歳でごさいます。 ですが、こちらの女の子。当店期待の新人でございますので、くれぐれも手荒な真似は謹んで頂きますよう、宜しくお願いします」
「はい」
ミーアの特徴と完全一致する遊女を発見。
料金の金貨四枚を支払うと、とある一室へと案内される。
「こちらでお待ち下さいませ。間も無く女の子がやって参りますので」
そう告げると黒服は去っていった。
五畳ほどの部屋だ。
一本の蝋燭の火がゆらゆらと揺れ動き、部屋の中を妖しく照らしている。
部屋の中央にどーんと置かれたダブルベッドに腰を落とし考える。
もしも、万が一ミーアでは無かった場合、どうしようか、と。
支払った金貨は四枚。結構な大金だ。
見す見すそれを捨てるのも何だし、その時はいっそこのまま童貞を捨てるか?
なんていう、
――いや、待て。ダメだ。
ミーアじゃないにしても14歳という時点であり得ない。百歩譲って16、出来れば18歳を越えててくれると尚有り難いのだが……
――いやいや、待て待て!
そもそも、俺は何故
ミーアの貞操が危ぶまれる今、金なんて二の次、時間が何よりも大事に決まっている!
ガチャ……
そうこう考えている所へ部屋の扉が開いた。
「ミーアと申します。よろしくお願いしま――って……えっ!?」
やって来た遊女はやはりミーアだった。そして、例に倣ってミーアもまた露出度の高い艶っぽい衣装を着ていた。
目をパチパチと、驚きの表情で固まるミーア。
助けに来たとはいえ、この状況である。
さすがに気恥ずかしい俺は、それを誤魔化すように「……おう」と、右手を挙げる。
するとミーアは視線を彷徨わせながら俺の隣りへと、ちょこんと腰掛け、俯きながら辿々しい口調で話し始める。
「へ、へぇ〜……ユウキ兄ちゃんも、こんな所来るんだ……。意外だなぁ。……でね……あたし、初めてだから……その……優しく、してね?」
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新作の執筆に時間を割きたいので、申し訳ありませんが、明日より不定期更新に切り替えます。ご了承下さい。
次回更新は12月10日(日)です!
また、完結まで書くつもりでいますので、今後とも本作をよろしくお願いします!
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