第21話 娼館街ガーラを目指す

 〝変態男〟ことドリーとの一件から翌朝。

 

 正直、今日はゆっくりと休みたい気分だ。

 理由はもちろん昨日の孤児院での一件だ。身体的な疲れもさる事ながら精神的な疲れも大きい。


 だが、ミーアには今日も日本刀造りを進めると伝えてしまっていた為、気力を振り絞り何とか起き上がる。


「よし、今日もやるか!」


 作務衣に着替え、火床ほどに火を起こし、準備完了したところで違和感。


「あれ?」


 いつもであればこの時点で既にミーアは来ているのだが……。


「寝坊か?けしからん奴だな」


 まぁ、まだ正式に弟子となったわけじゃないからな。今回は許してやろう。

 しかし、弟子入り後はこうはいかない。締めるところは締めていくつもりだ。


 というわけで、ミーア不在のまま作業開始。

 ちなみに、今日で皮鉄かわがねの鍛錬は終わらせる予定だ。


 ――カンッ!カンッ!カンッ!




 ◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎




 ――夕暮れ時。


「あれ?」


 結局、作業を終える頃になってもミーアは現れなかった。


 こんな事なら気のままに、今日はゆっくりと体を休めばよかったと後悔する。


「ミーアの奴め。すっぽかしやがったな」


 しかし、律儀なあいつにしては不自然な行動だ。


「ちょっと様子を見に行くか」


 違和感と少しばかりの胸騒ぎを覚えた俺は鉄材店へと向かう事にした。




 ◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎




 鉄材店に着いた。

 一階の工場は閉ざされている。夕暮れ時だし、当然といえば当然。そこに対する違和感は無い。


 俺は2階の住居の方へと上がり扉をノックする。


 ――コンコン


 ――しーん……


 反応無し。ここで違和感。


「佑樹です!どなたかいませんか?」


 ――しーん……


 やはり反応は無い。


「一体、どういう事だ?」


 俺が一人、扉の前で首を傾げているとそこへ、


「――ユウキか?」


 と、下の方から声が掛けられた。

 振り向くと声の主はC級冒険者のスパーキンさんだった。


「あぁ、スパーキンさん。……ルカさん、知りませんか?」


 客観的に、何故俺がルカさんの所在を気にしているのか不自然だと思いながらも、その胸のつっかえを解消するべくスパーキンさんへそれを投げ掛けた。


「……そうか。お前、まだ知らないのか……」


 するとスパーキンさんは途端に神妙な顔つきになった。


 何?――何だ?この感じは……。

 胸騒ぎがする。


 何か良くない事がルカさんとミーアの身に起きた事を俺はこの時点で悟った。


「……何があったんですか?」


「確かお前、ここの主人と親しい仲だったな……?」


「はい」


「いいか、心して聞けよ?」


 俺は固唾を飲み、頷いた。


「ここの主人は昨日、死んだらしい……」


「――え?」


 晴天の霹靂とはまさにこの事。

 その衝撃に唖然と固まる俺へ対し、スパーキンさんはその内容を話し始めた。


「昨日、近くの鉱山へ鉄鉱石を取りに行ったらしいのだが、そこで魔獣に襲われたらしい」


 近くの鉱山とは、入山規制のかかってない比較的安全な鉱山の事だ。

 しかし、いくら安全とはいえ〝絶対〟では無い。このような同じパターンで命を落とす人は珍しくない。

 そもそも、この世界での〝死〟とは俺の知ってる前世の世界よりもずっと身近な存在だ。


 ルカさんの死を異世界この世界の価値観で説明するなら、

 

 ただ単に……ついてなかった。


 それだけだろう。


 運の傾き次第で人の生死が決まるのは当然と言えば当然だが、前世の世界よりもこの世界ではもっとさらに、その要素は強く作用する。


 ふと、ミーアの事を思い出し、それをスパーキンさんへ投げ掛ける。


「――ミーアは? 今、どうしてるか知ってますか?」


「ミーア……。 あぁ、鉄材店ここの娘の事か?」


「はい」


「すまん、俺もそこまでは知らない」


「ミーアちゃんなら、ラグージュ領へ行ったよ……」


 話に割って入ってきたのは、鉄材店ここの向かい側の家の住人と思しき中年女性。


 ラグージュ領――カノン村から見て東側に隣接する子爵領だ。

 そして〝ラグージュ領〟と聞いて嫌な予感がする。


「何故、ラグージュ領へ……?」


「……身寄りをなくした少女が、ラグージュ領へ行く。それだけで察しがつかないかしら?」


 ラグージュ領は娼婦産業で有名な街だ。


「――まさか」


「そうよ。娼館送り。 亡くなったミーアちゃんのお父さん、実は借金があったみたいでね。それに加えて弟子入りする予定だった3人へ対する慰謝料も発生したとかで、それらを全てをミーアちゃんが背負う事になったみたいなの……可哀想に」


 前にも言ったように成人したタイミングでしか事実上、弟子入りする事は不可能。


 そして次の成人式、この世界で言うところの〝成就の儀〟まで既に半年を切っている。

 このタイミングでの弟子入り内定の取り消しはその子らの人生を大きく狂わしかねない。

 つまり、その3人は比較的遅いこのタイミングから再び弟子入り先を探さねばならくなり、もし見つからず時間ばかりが過ぎ去った場合、最悪、職人の道を閉ざされてしまう。


 こうした問題が起こる事から、この世界では弟子入りの内定を取り消す事はタブーとされているのだ。


 しかし、ルカさんの作ったというその借金だが、それはおそらく、鉄材店の経営不振からによるものではなかったと思われる。

 というのも、生前のルカさんとのやり取りの中で売り上げは好調だったと聞いていたはずだからだ。


「借金っていうのは、どういう事ですか?」


 中年女性へ投げ掛ける。


「3人の弟子入りを受けて、事業拡大に乗り出したみたいでね。その先駆けとして工場の増築に乗り出したみたいなの。まだ着工には及んでないけど、もうお金は動いた後だったみたいでね。取り消しも出来なかったみたいだわ」


 増築に掛かる材料費や人件費、その他諸々。人件費はともかくとしても、材料費のキャンセルは中々に難しいだろう。


 詰まる所、増築コストに借りた借金だけが残ってしまい、加えて弟子入り予定だった3人への違約金も重なってしまった。と、いう事だ。

 確かにこれはかなりの金額になりそうだ。

 

「ミーアはラグージュ領へ、いつ出立したか分かりますか?」


「そんなに前じゃないわ。多分、一時間前くらいかしら」


「そうですか。 あとそれと、ミーアが働くその娼館について何か情報は持っていませんか?」


「ごめんなさい。それは分からないわね」


「そうですか。ありがとうごさいます。では、俺はこれで失礼します」


 情報をくれた中年女性へ一礼して、俺はすぐさま走り出したのだった。


――――――――――――――――――――


現在新作を執筆中です。

タイトル

『魔王が美少女過ぎて殺せません!なので、討伐した事にして保護します!〜カヨワイ魔王ちゃんと旅する甘々冒険記〜』

こちらの作品は早ければ来年1月1日から遅ければ2月から連載開始する予定です。

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