第20話 お父さんからのプレゼント

《ミーア視点》


 これは昨夜、お父さんに、ユウキ兄ちゃんの所に弟子入りしたいと打ち明けた時の事だ。


『そうか、そうか。ユウキの所へ弟子入りか!良いじゃないか!あいつにならお前の事も安心して任せられる』


『……うん。 でも、その……ごめんね?』


『何がだ?何故お前が謝るんだ?』


『いや、だって。 本来ならあたしはお父さんの後を……』


『なんだ、そんな事を気にしてたのか? むしろ、俺はお前がそう言ってくる事を待ってたんだがな』


『え?』


『好きなだろ? あいつの事が』


『――え!?……いや、何で? いや、そうじゃなくて……お父さん!何急に変な事言ってんの!?』


『はははは! 分かり易いやつだな!バレバレだよ!ずっと前から知ってる。今更隠さなくていい』


『……うぅ……』


『だが、あいつは超が付くほどの鈍感野郎だ。分かり易いお前でも、あいつは未だにお前の気持ちには気付いていないだろうな。だから、あいつに分からせるには相当攻めなきゃダメだ』


『……うん、知ってる……』


『ウチの娘をこんなになるまで惚れさせるなんてな。まったく、けしからん奴だなあいつは。……だが、あいつはいい奴だ。それは俺が保障してやる』


『それも知ってるよ……』


『ははは!そうだったな! おそらく、お前は誰よりも一番あいつの事を知っている。 そうだろ?』


『……うん』


『欲しいんだろ?あいつが』


『……うん』


『なら頑張れ!ミーア』


『うん……頑張る……』




 ◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎




 そして、今――


「――ゔぁああああぁぁあーーーっ!!」


 お父さんが死んだ。

 行っていた先の鉱山で、魔獣に襲われたらしい。


 遺体の損傷が激く、一見すると判別が出来ない程だが、着ている服から間違いなくお父さんである事が分かった。


「――お父さん!!お父さん!!お父さん!!……ゔぅ……何で、こんな……」


 変わり果てたお父さんに縋り付き、泣きに泣き続けるあたしは、ふとお父さんの手を握ろうとその手を取った。

 するとその時、


 ――ポト……


「?」


 お父さんの手から何かが落ちた。


「――!! これって……」


 赤い鉱石。

 あたしの誕生石だ。


「これって、もしかして……」


 娘が結婚する時、親はその娘に石を贈る。

 貴族やお金持ちの場合だとそれが宝石だが、平民の場合だとそうはいかない。

 なので、平民の場合だと安価で手に入る誕生石を贈るのが風習となっている。

 そして、この鉱石はおそらく行った先の鉱山の物だ。


「……お父さん……気が早いよ……」


 お父さんの遺体近くには大量の鉄鉱石が入った籠があったらしく、その事から入山目的は確かに鉄鉱石採取だったのだろう。

 その時、たまたまこれ(誕生石)を見つけて取ってきたのか、わざわざ探して取ってきたのかは分からない。


 でも、昨夜のやり取りで、お父さんなりに何か思う事があったのだろう。


 もしも、あたしとユウキ兄ちゃんが結婚する時の事を思って……。


「……お父さん……ごめん……あたしじゃユウキ兄ちゃんのお嫁さんにはなれないよ……」


 亡き父との対面後、一人の男があたしに話し掛けてきた。


「ルカ様のお嬢様でよろしかったですか?」


「……はい」


「この度はお父様がこのような事になってしまい、大変お気の毒な事で……」


 この人、一体何なんだろう。

 同情するような事を言いながらも、その顔は飄々としていて、如何にも他人事のような、少し笑ってるようにも見える。


「……あの、貴方は……」


「……あぁ、申し遅れました。 わたくし、商業ギルドのヴァルターと申します」

 

 商業ギルドの人か。

 お父さんが死んだ事による退会手続きとか、今後、あの店をどうするのか、とかの話し合いかな?


「実はわたくし共、お父様のルカ様へお金を融資しておりましてね。で、今回お亡くなりになられましたお父様に代わってそのお嬢様であるミーア様へ、その返済義務が移った事をお知らせしに参った次第でした」


「――え?」


 ……何で? 何であたしだけがこんな辛い思いをしなくちゃいけないの? 死にたい。


「つきましては、今お住まいの家を差押えさせて頂くか、それか、娼館婦としてミーア様のそのお身体で稼いで頂くか、どちらかお選びください」


 ……もう、いいや。 あたし、どうなったっていいや……。


「……娼館婦でお願いします」


――――――――――――――――――――


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