第17話 弟子入り内定
翌朝。
「おはよう!ユウキ兄ちゃん! 弟子入りの件、お父さんに言ったよ!」
今日も朝早くにやって来たミーアは開口一番、明るい声を響かせた。
既にミーアは俺が昨日渡した作務衣を着ていた。おそらく洗濯していないだろう。
普通の衣服ならまだしも、環境柄、相当な量の汗を吸う事となる作務衣は、出来れば毎日洗濯したいはずだ。
(もう一着、替えの作務衣が必要かもしれないな)
そんな事を思いながらも、ミーアの言葉に反応を示す。
「お? もう早速言ったのか? で、どうだった?」
俺としてもミーアの弟子入りは前向きに捉えているので、その結果には大変関心がある。
だだ、ミーアの明るい表情からして、ほぼその結果内容は分かってしまったが。
「ユウキ兄ちゃんに弟子入りしてもいいって! お父さん、むしろ喜んでくれたよ! ユウキ兄ちゃんに預けるのなら安心だってね」
おそらく反対はしないだろうとは思ってはいたが、ルカさんにとって、おそらくミーアは自分の後継者候補として考えていただろう。
そう思えば、多少なりとも申し訳なく思うところもある。
「そうか、それは良かったな。 俺としてもミーアが弟子として来てくれるのは有り難いし、良かったよ」
「え、本当?」
俺の言葉が意外だと言わんばかりの上目遣いで、そう聞いてくるミーア。
「そりゃ、そうだよ。人手不足だったしな。 それに、弟子に取るなら見ず知らずの人間よりもミーアのような気心知れた人間の方が良いに決まっている。 俺としては大歓迎だよ」
笑みを作り、そんな本音を伝えると、
「……そう思ってくれてたんだ……良かった」
ミーアはそう言って少し俯きながらどこか嬉しそうな笑みを零した。それと、心無しかミーアの頬がほんのりと赤く見えた。
「だけど、何だかルカさんには申し訳ないな。きっとミーアの事を跡取りに考えていただろうし……」
「あ。 その事なら気にしなくて大丈夫かも。 来年お父さんのところにも弟子が来てくれるみたいだから。それも3人も」
「3人!?」
「うん。あたしも昨日初めて聞かされてびっくりしたよ。 ユウキ兄ちゃんに弟子入りしたい事、結構あたしなりに緊張しながら言ったつもりだったんだけど、お父さんったら本当軽い感じで、『おう、そうか。良かったじゃねぇか』だって。緊張して損したよ」
その話を聞いて俺の中での心苦さが晴れていく。
「はは。 でも、丸く収まって良かったな」
「うん! お弟子さんが3人も来てくれるならあたしも心置きなくやれそうだよ!」
ミーアも俺と同じで心の中にあったしこりが消えたような晴れた表情をしている。
ともあれ、丸く収まってくれて本当に良かった。
「あぁ。そうだな。 よし! じゃあそろそろ作業を始めるぞ?」
「うん! よろしくお願いします!――師匠!」
「だから、〝師匠〟はまだ早いって……」
「あははは、ユウキ兄ちゃん照れてる〜」
「――うるさい!」
そんな明るい雰囲気の中、作業を開始する。
今日も引き続き
夕暮れ時。
「よーし。今日はここまでだな」
「うん。今日もありがとうございました!」
休憩を挟みつつ、7回目の折り返しを終えたところで今日の作業を終了した。
今日を機にミーアの言葉の端々には敬語が挟まるようになり、ミーアの弟子入りへの自覚が早くも見えたような気がした。
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ミーアが帰り、俺はエルとの距離を縮める為に今日も孤児院へと向かう。
と、その前に、ミーアに二着目の作務衣を作る為に生地屋に寄ると、
「おやまぁ、二着目かい?」
と、女店主からまたしても冷やかされる。
俺はそれに対して溜息混じりに「違います」と、軽くあしらい、その場を後にした。
孤児院に辿りついた。
目の前には孤児院アンテナショップに立つ銀髪の美少女――エルが表情を引き攣らせ、俺に接客の言葉を掛けてくる。
今日はエルの隣りにマリーさんが居る。
なるほど。
昨夜のマリーさんとの会話の中でエルを一人で接客させるのは危ないという事になったからだろう。
「い、いらっしゃい、ませ……」
昨日と同じでエルは俺に怯えたような表情で対応する。かなり怯えているようだ。
頭で、というよりも本能レベルで怯えている。よほど〝男〟が恐いのだろう。可哀想に。
そんなエルの怯える姿を見て胸が痛むのと同時に、例の変態男へ対して憤りのようなものが湧き上がってくる。
「今日も昨日と同じ物をお願いします」
俺は出来るだけ穏やかな表情の上に優し味ある笑みを作り、そう告げるが、エルの様子は変わらない。
依然としてエルは怯えた様子で視線を彷徨わせ、俺との視線を合わせようとしない。
「か、かしこまりました。……えっと、その、お客様、昨日は申し訳ありませんでした……失礼な態度をとってしまって」
唐突にエルは昨日の事に対しての謝罪の言葉を口にした。
しかし、そう口にしながらもエルの視線は下を向き、震えた手つきでパンを紙で包む己の作業を見つめている。
その後パンの包装を終え、ジャムと共にそれら商品を俺に差しだそうとエルは顔を上げる。
「お、お待たせ、致しま――!?」
その瞬間、エルの表情が強張っり、視線の動きもぴたりと止まった。
俺の方、いや――俺の背後を見ているようだ。
そして次の瞬間、エルのその表情は戦慄へと歪んでいき、首をふるふると振りながら後退る動作をとった。
「いや、いや――」
――その時だった。
「……探したよ、エルちゃぁ〜ん。こんな所に居たんだねぇ〜」
背後から聞こえる気色の悪い男の声音。
「――ッ!?」
俺は咄嗟に振り返った。
そこに立っていた人物はニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
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