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「…コレは…?あ…」



俺が紙の束を受け取って中身を確認すると、この市場で取り扱っている商品の相場が書かれていた。



「本当はよそもんには軽々しく渡したらダメなんだが、にいちゃんはこの村に居たからな…特別だ」


「…じゃあ、買います」


「まいどあり!」



おっさんに20ゼベルを払い、良く分からん資料をゲット。



…こんなもんがなんの役に立つんだ?まさか詐欺られた?



俺は軽々しく買った事に軽く後悔しつつ一旦市場から離れる。



そして木陰に腰を下ろしてとりあえず資料を確認する事に。




……おお!そうか!良く考えたら、こっちの物をあっちで売るだけじゃなく…



あっちの物をこっちで売りながらこっちのをあっちで売った方が効率的だな!



街の資料と村の資料を確認して俺は新しい考えを閃く。



なるほど、そうと決まれば明日からか。



今日はもうしょうがないからこの村で買ったのを街に売るだけにしよう。




さて…何が安いのか……ザルイモが3ゼベル、チャツボが2ゼベル…



…チャツボ?どんな野菜なんだろう…?まあいいか。



おっ!タケダケとかいうのが街では一本10ゼベルなのに、ココでは2ゼベル!?



コレは買いだな!



資料を見比べて購入する物を決めた俺は市場に再び足を踏み入れた。



「いらっしゃい!」


「あの、タケダケというのが欲しいんですけど…」


「タケダケね…いくつ欲しいんだい?」


「あるだけ全部」


「全部!?」



昨日と同じようにやはり買い占めようとすると店主は驚く。



「全部っていうと…10kgぐらいになっちまうけど…」


「あの…まとめ買いで安くならない?」


「うーん…そうだな…300…250ゼベルでどうだ?」



値段交渉をしてみたら意外と安くしてくれた。




「あ、じゃあそれで」


「毎度あり」



俺は金を払って5kgの箱を一つずつ…計二つ受け取ってリヤカーに乗せる。



「いらっしゃい」


「ザルイモが欲しいんだけど…」



そしてまた別の店に行って目的の物を尋ねた。



「あー、あいにくザルイモは切らしてまして…このツチイモなんてどうです?汁物に入れたら美味しいですよ」



どうやら目的の品は売り切れたようで、別のイモをオススメされた。



えーと…ツチイモ、ツチイモ…街で2ゼベルか…



とりあえず少し買っておくか。



「じゃあ100kgぐらい」


「100kg!?残念ながらウチでは60kgまでしか取り扱っておりませんよ」



目当ての物じゃないので適当な重さを伝えるとまたしても驚かれた挙句に、在庫不足のようだ。



「あー、じゃああるだけ全部で」


「60ゼベルになります」


「…はい」



流石に60kgじゃ交渉するか否か微妙なラインなので交渉せずにそのまま払う。



「えーと…次は…」


「おー、コレは隣ん家のお兄さんじゃない!」



受け取った荷物をリヤカーに積んで歩き出すとどこからか声をかけられた。



「…ん…?」


「あはは!こっちこっち」



俺が周りを見渡してると斜め後ろの女の子が手を振っている。



「リヤカー引っ張って何してるの?誰かのおつかい?街に行った、って聞いたけど」



見た目的には俺と近い歳であろう女は近づいてくると矢継ぎ早に話しかけてきた。



「まあまあ、寄ってってよ!」


「あ…」



女の子は俺が何か言う間もなく腕を掴んで引っ張った。



…なんで田舎の人ってこうもフレンドリーなんだろう?



都会育ちの普通の男は若い女に触れられたら、コイツ俺の事好きなんじゃね?って勘違いするぞ。



押せばワンチャン…とも思うが、残念ながらココは周りに人が多過ぎる。



もし告白するとしたら二人きりになった時がチャンスか。



「で、何してるの?」


「…別に、ただのおつかい…だよ」



女の子に露店のような場所に引き込まれ、振り返った後に笑顔で聞いてくるので俺は顔を逸らして適当に誤魔化す。



…揺れたポニーテールの髪から良い匂いがする…



「お使いかぁ…あんだけ大量に買わされて大変だね」


「…別に…それより、ココでは何を売ってるんだ?」



髪をガン見されてた事に気付かれないように俺はソッポを向いたまま話題を変えた。



「お!よくぞ聞いてくれました!ウチではねぇ、イモイモターンっていうのを売ってるの!」


「…イモイモターン…?」



初めて聞く名前にどんな商品か全く想像がつかない。



「そう!いろんなイモを混ぜて、味付けして、ペースト状にしてこの瓶に詰めるの!」



味見してみる?と、女の子はパンを取り出して瓶の中身を塗っていく。



「はい、どうぞ!」


「あ、ありがと………お、う、美味い…」



押し付けるように渡されたパンを食べると、意外…というか普通に美味い。



さつまいものような甘さに、ジャガイモを焼いたような香ばしさ…



そして里芋のような舌触りで砂糖とかとは違う自然な甘さ。



お菓子にもご飯にも使えそうな万能感あふれる未知の味。



「でしょ!この村の特産品を目指してるんだ!」


「へぇー…コレ、いくら?」


「興味湧いた?一つ2ゼベル50ベルだよ」



値段を聞くと、なんと250円。



この味が200gで250円とはとても安い。



…コレは都会ならば1000円でも売れると思う。



「全部でいくつ?」


「え?あー…今週で100個が目標、かな…在庫は340個あるけど」



先週は5個しか売れなかったし…と女の子は恥ずかしそうに頬を掻く。



「それ全部、売ってくれない?」


「…え?」


「まとめ買いだから…750ゼベルで譲ってくれないかな?」



歳が近く見えるからなのか、女の子のフレンドリーな性格だからなのか…



いつもは緊張するような値段交渉もサラッと言えた。

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