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「えーっと…ちょっと待って、お母さん呼んで来る」



…やっぱり値段交渉には応じてないのか女の子は奥に行ってしまう。



「…本当なの?」


「本当だって!」



5分もしない内に女の子が多分40代にしてはまだ若く見える…んであろう感じの母親と一緒に戻ってくる。



「…あら、ウチの商品を全部買ってくれるって本当?」


「あ、はい…750ゼベルでどうでしょう?」


「うーん…せめて800は欲しいわね…」



女の子と同じ値段を告げるとまさかのあっちからも値段交渉。



「…800……800……」


「…やっぱり750でいいわ」



街で売った時の計算をしながら呟くと何か勘違いしてくれたのか、値下げしてくれた。



「…じゃあ…コレで」


「梱包お願いできる?……確かに、750ゼベルちょうどね」



俺が金を払うとお母さんは娘に指示を出して受け取った札束を数えた。



「値切ったんだからその分お昼奢ってー!」


「えっ?」


「あら、いいの?ありがとう」


「えっ!?」



何故か知らないけど、女の子に押されるまま母親ともども昼飯を奢る流れになってしまった。



…あれ?なんか昨日もこんな事があったような…



「あっちの店美味しいんだって!…ちょっと高いらしいけど」


「…3人で200ゼベルまでだ、出せるのは」


「大丈夫!100ゼベルで済むから!」



…いやいや、昼ご飯に一人、3300円か…高級住宅街に住むマダムかよ…



…そんなこんな田舎娘とその母親に昼飯を奢った後。



俺はとりあえず市場をブラブラして目に付いた物をあるだけ買い占め、金が尽きたので街に戻る事に。



そしてイモのペースト以外を市場に売ったあと、パンを買って来ての試食販売をしてみた。



…かなり緊張したけど、何故か市場の職員が手伝ってくれたので成功。



やっぱり俺の予想通り10ゼベルで売れた。



…多分、店頭に並ぶ頃には11か12ゼベルぐらいになってるだろうなぁ…




…というワケで、今回の所持金は17600ゼベルになった。



ついに100万円の大台を超えたワケだが…



全然実感が湧かない。



まるでゲームで大金を手に入れたかのような感覚だ。



…まあ、元の世界に持って行ってもただの紙切れでしかないんだろうから間違ってはいないんだろうけども。



そもそも…こんな簡単に大金が稼げるってのが非現実的過ぎる。



物を買って、運んで、売る。



そんな簡単な事を二日しただけで100万円。



元の世界では絶対にありえない事だ。



…だけど、こんなゲーム感覚で稼ぐのは面白い。



現実ではありえないからこその面白さ。



と、言うわけで俺はゲーム感覚としての商人を続けてみようと思う。



金を稼ぐ事に飽きるその日まで。





ーーーーーーーー





…街で買って、村に売る。



そして近くの街に行って、更に近くの村へ行く。



…近隣の村や街でふらふらと旅をするかのように回って売買を続ける事、一週間。



ついに所持金が100万ゼベルを超えた。



日本円に換算すると約一億円。



が、金持ちになった実感は全くといっていいほどないし…流石にこんな大金を持ち歩くのははっきり言って怖い。



いつ賊に襲われるかビクビクだが、街道を通ってる限りは襲われる可能性は低いらしい。



今はもう初日のように近道だから…といって山道を通れる気がしない。



…まあ、たかが一週間といえど値段交渉の方は少しは慣れて来たが。



そんな今、ネックなのが馬車代。



出来る事ならば自分で馬に乗って移動したいけども一般的な日本人に馬術の経験なんてあるわけもなく…



当然馬になんて乗れないし、乗った所で落ちて怪我するのが目に見えているわけだ。



「うーむ…なにか良い方法はないものか…うん?」



久しぶりの図書館で本を探していると気になるタイトルが目にとまる。



『スキルと資格はどう違う』



「…スキル?…ん?」



『失敗しないためのスキルと職業の選び方』



ゲームの単語のようなタイトルに興味を持った俺は二冊手に取り、とりあえず読んでみる事にした。



…ふむふむ、なるほど…スキルっていうのは技術なのか。



いや当然か。



…へぇ…専門学校みたいな所で簡単に取れるんだ…



ん…?スキル、レベル…?レベルってのは一級、二級みたいなものか…?



漢検三級とか英検準二級とかそんな感じ…あ、え?資格とはちが……うん?どういう…?



「…はぁ…」



…俺は本を二冊とも流し読みした結果…結局『スキル』というのが何か分からなかった。



とりあえず分かった事はスキルを覚えるための指南場っつー所がある事ぐらい。



…多分だけど、そろばん塾とかピアノ教室とかそんな感じのものだと思う。



…どうやら俺が馬に乗れるようになるには結局のところ…



元の世界と同じく乗馬クラブ的な所に通って練習するしかないみたいだ。



そしておそらくだが、馬に乗れるようになったら乗馬スキルだか馬術スキルだかを覚えた事になるんだろう。



想像で言うならば、ただ馬に乗るだけがスキルレベル1で、リヤカーを引けるようになってようやくレベル2ってとこか…?



…欲しかった情報が得られたわけじゃないけどそれなりに成果はあったので居候先へと戻る事に。




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