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…しかしおじさんから1000ゼベルを貰ったものの、商売について何の知識も無いので…
とりあえず図書館で商売の基礎から勉強してみる事にした。
…『安く買って、高く売る』というのが商売の基本で大前提である事は元の世界でも同じだから今更感が凄いが…
問題はソレをどうやって実践するか、だ。
そこらの安い物をただ買ってもより安くでしか売れないし、高い物を買っても付加価値…プレミアが付かないと買値よりも高く売れない事は中学生でも分かる。
高く売れる物をどうやって安く仕入れるか…その方法を知らない事には商売には手を出せない。
株と同じだ。
ある程度の知識が無いまま手を出すと大損してしまう。
いわば商人とトレーダーは同じような物なのだろう。
…それにしても…実用書にしろ、経済書にしろ…難しくて理解できん。
流通ルートがどうのこうの、相手の反応を見て値段交渉がどうのこうの。
俺が知りたいのはもっとこう…子供にでも分かるような簡単な知識なのに。
「はぁ…」
結局、何一つ成果を得られないまま閉館の時間になってしまった。
時間を無駄にしたな…と俺はため息を吐いて居候先へと戻る。
「…どこに行っていた」
家の中に入るとおじさんが険しい顔して立っており、脇を通り抜けようとしたら尋ねてきた。
「え!あ、その…図書館に…」
「そこで何か良い情報はあったのか?」
「いえ…何も…」
「…はぁ…コレを読め」
おじさんを俺の返答を聞いてため息を吐くと紙の束を渡してくる。
「…コレは…?」
「この街で取引されている物の相場が書いてある。いいか、商売ってのはいかに良い流通ルートを確保するか…で成功するか否かが決まる」
「…はぁ…」
「今渡した紙を見て何を売買すれば儲かるのか、頭を使うんだな」
おじさんは意外と優しいのか俺が必要してる情報を少しだけ教えてくれ、なおかつ商売用の資料までくれた。
「あ、ありがとうございます!頑張ります」
俺がお礼を言うもおじさんは何の反応もせずに背中を向けて廊下を歩いて行く。
俺は部屋に戻るとすぐにおじさんから貰った資料に目を通す事にした。
…その資料には食料や資材といった物の単位と値段が細かく載っている。
「うーん…異世界なのに単位はkgが使われてんだな…不思議…」
俺が資料で一番最初に目についたのは単位だった。
…通貨が違うのに単位が同じと言うのも…
まあ、もしかしたら女神とやらがわざわざ元の世界で分かりやすい単位に翻訳してくれているのかもしれないが。
ソコはどうでもいいとして、俺は資料を貰ったは良いがこれからどうするか…を寝っ転がって考える事に。
…おじさんは流通ルートって言ってたけど、そもそも流通ルートってなんだ?
仲買人とか卸売りとかそんな感じの中間業者?
生産者から買った物を更に買う…みたいな?
…でも、それってマージン…とかいう良く分からん金が発生するんだっけ?
それなら生産者から直接買った方が………ん?
そうか!ココで買って、別の街で高く売れば良いのか!
元の世界での商売を想像してたら良いアイディアが浮かんだので俺は思わず上半身を起こした。
…別の街にいきなり売りに行くのは厳しいな…何が高く売れるとか分からんし…
だけど、あの田舎なら……いや、あの田舎でも何が高く売れるか分からねぇ。
何が安いかならともかく……って、あ!
逆か!田舎で安く買ってココで高く売れば良い!
更に良いアイディアが浮かんだ俺は資料の食料の項目を開いて、あの田舎で売られていた物の相場を確認する。
…良く考えたら俺、金持ってなかったからあっちでの物の値段とか見た事無かった…
周りの優しい人達が色んな物をタダでくれるから食べ物に困る事なんてなかったし。
…ふぅ、あっちの世界じゃ営業は足で稼げ…とか言われてるし、明日にでも一輪車だかリヤカーだかを借りて行ってみるか。
どうせココに居ても暇するだけだからな。
そうと決まれば飯を食って寝よ…明日は早く起きられれば良いが…
…次の日。
なんとか朝早く起きる事が出来た俺はホームセンターみたいな店を探した。
目的は商品を買った時に運ぶためのリヤカーを見るため。
…一応リヤカーとかの運搬道具?を売ってる店を見つけたが…
買う事は出来なかった。
コレ、良いなぁ…と思った物はどれも1000ゼベル超え。
つまりは上等な物なので10万円以上もするのだ。
かといって安物は見た目からして小さいし耐久力がなさそうだし、で買いたくない。
…しょうがないので一日50ゼベルでレンタルする事に。
一日借りるだけで5000円ってなかなかの値段じゃないか…と朝っぱらからテンションダウンだ。
ただでさえ田舎まで十数kmもあるというのに…
果たして今日中に帰ってこれるのやら。
とりあえず地図を片手にリヤカーにバッグを乗せて街を出発。
…近道として山道を通ったり、休憩しながら進む事約三時間とちょっと過ぎ。
おそらく街道を通るよりは早く到着。
「…ふう、やっと着いた…少し休んでから市場に行くか」
俺は直接市場には行かずに村の集会所のような所へと向かう。
「おお、にいちゃん!どうした?都会では仕事を見つけられなかったのか?」
「昨日の今日で帰ってくるなんて、都会の厳しさを実感したか?」
道中、俺が住ませて貰っていた家の近くの爺さん達と遭遇した。
「あ、いえ…商人をやろうかな、と思って仕入れに」
「仕入れ?商人が?直接に?こりゃあ珍しい!」
この村に戻って来た理由を話すと何故か驚かれた。
「…珍しいの?」
「そりゃあ、なぁ…商人ってのはだいたい運び屋に指図して商品を運ばせてるモンだよ」
「商人が荷物を持って歩くと賊に襲われて危険だ、って話だぞ」
だから運び屋も護衛を連れて移動してるもんさ。と爺さん達は俺がやってる事がどれだけ馬鹿げた事なのかを教えてくれる。
「賊って…来る最中は見なかったけど…」
「そりゃ空っぽの荷車を襲ってもしょうがないだろう」
「奴らは荷物を確認してから襲いにくるんだ、もし荷物を乗せたら街道以外は通らない方が良い」
「街道だって絶対に安全ってワケではないから過信は禁物だぞ」
爺さん達は俺を心配しているようだが、話を聞くに不安しか生まれない。
…今日中に帰れるか、と心配してたが…無事に帰れるかも怪しくなってきたな…
「とりあえず暗くなる前には街に着くよう心がけた方が良い」
「そうだ。間に合わないと思ったら下手に外に出ずに一泊して明るくなってから出た方が安全だ」
「なるほど…勉強になるなぁ、ありがとうございます」
あ、それとあの漬物…とても美味しかったです。とお礼を言った後に貰い物の話にシフトして雑談しながら集会所へと向かった。
そして集会所で色んな人と話して一時間ほど休憩した後に今回の目的である市場へと移動する。
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