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「…転職所については後から説明するとして…今は称号だ。いいか、ココをよく見ておけよ」



おっさんはそう言うと自分の頭の上にゲームのような表示を出して指を指す。



すると、『なし』と表示されてる部分が急に『案内人』へと変わる。



「え…!?急に変わった…!?」


「ははは、称号が変わる瞬間を見るのは初めてか?この称号にも当然効果がある。この称号にすると俺の器用さが1上がる」


「いち…」


「おっと、たった1とはいえ上がるのは嬉しいもんだ。中にはステータスが下がる称号だってあるからな」



ココでおっさんの口から新たに新情報が。



「そういうのは『レッテル』と言う呼称に変わり、主に犯罪者に多い」


「レッテル…?」


「レッテルを貼られたらたまったもんじゃない。が、まあ基本的に称号と同じで実際に行動に移していなければ貰える物でもない。たとえ周りに人殺しと噂されていても本当に人を殺してなければ称号が『人殺し』のレッテルには変わらないからな」


「…当然、虎殺しと呼ばれていても実際に虎を殺してなければ『虎殺し』の称号は貰えずにただの自称だったりするわけだ」


「…一応今の説明で分かったと思うが、レッテルは一度貼られたら自分で剥がす術は無い。称号と違って悪業の証だから当然と言えば当然の罰なんだがな」



…なるほど、この世界での犯罪者は目に見える形で判別出来る…って事か。



これじゃ元の世界よりも犯罪のハードルが高くなるわな。



「『職業』や『称号』についての説明は以上だ。称号というのは未だに解明されていない分謎が多い、獲得したらどんな効果かを確認するのを忘れずにな」


「…ありがとうございます」


「おっと、忘れていた…最後に。称号は人に譲渡する事も可能だ。だからといって無理やり力づくで奪う事は出来ないから気をつけろ」


「分かりました、ありがとうございます」



俺は二度お礼を言ってその場を離れ、ロビー的な場所へと戻った。



「…説明は済みましたか?」


「あ、はい」


「では二階の方へとお進み下さい…職業案内のプレートがあるので、あとはそちらの指示に従えばよろしいかと」


「あ、ありがとうございます」



またしても案内役のようなお兄さんが丁寧に教えてくれたのでお礼を言って言われるがまま二階へと向かう。



…お、結構人が多いな…この異世界でも不況なのか?



二階に登って廊下を歩くと小フロアみたいなスペースに十数人ほどの人が、座ってたりうろついていたりしている。



…うん?なんだ?壁に掲示板みたいなのが……お、このいっぱい貼られてる紙って全部求人募集のやつ?



「働きたい仕事はお決まりですか?」



…俺が壁一面に貼られてる求人情報を見てると職員みたいなお姉さんが急に話しかけてきた。



「あ、いえ…実はまだ…」


「そうでしたか、失礼致しました…ではこちらへどうぞ」



お姉さんの問いに否定的に答えるとカウンター席へと案内される。



…それからの展開は早かった。



あれよあれよと言う間にお姉さんにどんどん質問され、それに答えていく内に俺の向いている仕事内容が絞られていく。



そして最終的に残ったのは『商人』『店員』『事務職員』の三つ。



…その中からてっとり早く金を稼げるのは『商人』しか無いので、結果的にはもう決まったも同然なのである。



『商人』に決めるとお姉さんはすぐさま俺を商家と呼ばれる場所へと連れて行ってくれるらしい。




ーーーー




「…ほう、私の下で働きたい…と?」



予想40代で厳格な見た目のおじさんはお姉さんの話を聞いて俺を睨む。



「あ、いえ、無理なら…」


「…よかろう。今はちょうど人手不足なのだ、お前は運が良い」



おじさんの迫力…威圧感?にビビって引きつった笑いを浮かべて断ろうとするも、何故か採用されてしまう。



「そうですか、ありがとうございます。では…」



お姉さんは笑顔でおじさんに頭を下げて嬉しそうに職場へと戻って行った。



…その場に残された俺と、昭和の頑固オヤジ的な雰囲気の怖そうなおじさんの間にかなり気まずい空気が流れ…



俺は軽い腹痛がして泣きたくなって、今すぐにでも家に帰りたい気分になってしまう。



「…お前は…」


「は、はい」


「自由と教育、どちらが良い?」


「…え?…そりゃ自由が…」



唐突に話しかけてきたおじさんは意味不明な二択の選択肢を出して来た。



「…そうか…よし、ついてこい」



おじさんが家の中に入って行くので俺も靴を脱いでついて行く。



「これよりお前に1000ゼベル渡す、今月が終わるまでに500ゼベルを私に納めろ」


「…へ?それってどういう…」


「この1000ゼベルを元に稼いでこい。犯罪でなければ方法は問わん…ノルマを払えば残りはお前の給料だ」



いきなりの指示に俺が理解出来ずにいると、なんともいきなりな事を言い出した。



「…ただし、この事は先ほどの職員にも伝えておく。持ち逃げしたらどうなるか…分かっているだろうな?」


「だ、大丈夫です…も、持ち逃げなんて…ははっ」



おじさんが万が一の事を考え脅してくるので俺は恐怖で引きつった笑いしか出来ない。



「そうか、一応お前に部屋を貸してやろう…おい」


「…はい」



誰もいないであろう場所に声をかけると近くのドアが開いて少年が出てくる。



「空いてる部屋へ案内してやれ…あと、風呂の時間とトイレの場所も教えてやれ」


「…分かりました、ではこちらへどうぞ…」



おじさんは指示をするとどこかへ歩いて行ってしまったので、俺は少年の後をついて行く事に。



「…こちらが空き部屋になります、風呂の時間は11時と19時が空いておりますので…あとトイレが…」


「ち、ちょっと待って…!」



部屋に荷物を置く時間もくれずに少年はそそくさと話すとすぐに歩き出す。



「…トイレの場所は三箇所あります、ココと…ココ、あとは外に…」



廊下を歩きながら止まる事なく指を指しながら説明してくる少年に俺はついて行くのがやっと。



「…では、まだ仕事が残ってますので…」



少年は無愛想なままどこかへ歩いて行ってしまった。



…はぁ、仕事って言ったって金を増やしてノルマを納めろ…とか。



そんなアバウトな仕事内容があるかよ。



もっとこう…仕事の内容を細かく教えてくれても良いのに。



…でもなぁ、あのおじさん雰囲気が怖いから聞こうにも聞けないし…



一応この家の中には他にも人がいるっぽいし飯でも食ったら聞きにいってみるか。



俺は貸してくれた空き部屋に入り、荷物を置いて寝っ転がる。



…1000ゼベル、か…100って数字の札が10枚…



日本円に換算したらどれくらいのレートなんだろう?



確か、田舎の村で見た回復薬が10ゼベルだったから…



だいたいドルと同じ感じか?



流石に回復薬が10円ってはおかしいし、10ドルだったらなんとか理解できる……って待てよ。



と言う事は…1000ゼベルは円に換算すると…10万!?大金じゃん!!



ノルマは500…5万円か…このまま半分渡せば手取りが5万って事か?



…何もせずに5万円手に入るのか…!コレは美味しいな!

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