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…そして別の図書館に移動すること約15分後。



「意外と、遠かったな…」



俺の体力が無いだけか?と思いつつも建物の前でバッグから水筒を取り出して水を飲み、喉の渇きを潤してから中に入る。



…ココはさっきの所と違って意外と人がいるな…



荷物を取られないように肌身離さず持っておかないと。



…と、言ってもこのバッグの中身は田舎の人達から貰った食べ物しか入っていないが。



それでも今の俺には食べ物が貴重品だし、盗まれたら大変な事に違いない。



だが、やはりバッグを前面に抱えたままだとアイツ本を盗むかも…的な誤解を招くかもしれん。



…だとするなら司書から見られやすい位置で読むしかないな。



何か面白そうな物はないものか…



…10分ほど色んな本棚を見て回った結果、5冊の気になる本を手に取った。




『奴隷を上手に働かせるためには』

『直ぐにでも儲けられる10の方法』

『奴隷制度は悪なのか』

『ギルドの仕組み』

『冒険者や旅人が大金を手に入れられる理由』




…経済史なのか実用書なのか良く分からないけども、とりあえず読めばこの世界の事がもう少し詳しく分かるかもしれない。




「…おっと、もうこんな時間か…」



パラパラ…と適当に気になった場所以外は流し読みしてると時間は既に正午。



この世界でもメシの時間は元の世界とあまり変わらないみたいなので本を元の棚に返して外に出る。



そして入口の隅に座り、バッグの中からおにぎりを取り出して昼メシで食べる事に。



…職安の午後は30分って書いてあったな…



今日中に仕事が見つかれば良いんだが…



はぁ…まさか初バイトが異世界で、とは…



こんな事になるんだったらマックでもコンビニでもいいからバイトしとけば良かった…





「お客様、初めてですか?」


「うえっ!?あ、はあ…」



時間になって直ぐに職安の建物の中に入るも、何も分からずキョロキョロして歩いてたら職員っぽいお兄さんが話しかけてくる。



「でしたら、あちらの案内の所に行かれるとよろしいかと」


「あ、ありがとうございます…」



困ってる俺を見かねて話しかけて来たのか、それともただ単に仕事だからなのか分からないが…



笑顔で奥のカウンターを示したお兄さんに軽く会釈するようにお礼を言い、その場所へと進む。



「あの…」


「…はい?」


「ココ、初めてなんですけど…」


「ああー、仕事ね。はいはい」



カウンターの奥にやる気なさそうに雑誌を読んでるおっさんに話しかけたら、読んでた雑誌を畳んで座り方を変える。



「俺んとこに来るって事は初めてって事だろうから、色々と説明が長くなるけど大丈夫?」


「あ、はい」



カウンターの上の雑誌を後ろに放り投げたおっさんが頭を掻きながら確認して来たので俺は頷いて返事をした。



「オーケー、だが説明する前に先ず確認したい事がある」


「確認、ですか?」



おっさんの『確認』という言葉に俺は何故か一気に緊張感が湧いてくる。



「といっても簡単な事だ。『職業』が何かを知ってるか?」


「職業…?」


「…よし、分かった。先ずはそこからだな」



職業って公務員とかの…?と聞こうとしたらおっさんは腕を組んで何かを考えたかのような素振りをした後に話を進めた。



「職業は生計を立てるために働いたり、仕事をする事だ。職業によってステータスが変化する、有名なのは剣士や魔術師などだが…」


「…ステータスが変化…?」



ステータスが変化ってどういう事だ?



「剣士ならば体力や物理関連の攻撃力が上がり、魔術師ならば魔力や魔法関連の攻撃力があがる。そして大事な事だが職業は複数同時に就く事は出来ない」


「…例えば剣士をしながら魔法も使いたいから魔術師に…と言うのは無理だ、剣と魔法を同時に使いたければ魔法剣士という職業に就くしか無い」


「同時に商人の職業に就きながら魔術師を…というのも無理だ。極東の辺境の地での言葉に『二兎を追う者は一兎をも得ず』というものがある…二つの事を同時にするのは無理、という意味だそうだ」



おっさんは日本のことわざを使いながら外見に似合わず丁寧に説明してくれる。



「と、色々説明したが…今話したのは傭兵や冒険者として危険を犯して金を稼ぐ奴らに必要な知識で、普通の仕事をする上では全く気にしなくてもいい」


「…え?」


「俺の職業は『事務職員』だがステータスは器用さが2上がった程度だ。危険の無い仕事ではステータスなど重要視する必要は無いからな…いや、確かに高くて損は無い、というか高いと得な部分が多いのは認めるが…」



…人間、ステータスだけで判断できるものでは無い。とおっさんは咳払いしてからそう締めた。



「ここまでで何か質問はあるか?」


「…あー、えーと…例えば魔術師で覚えた魔法とかは転職したらどうなるの?ですか?」



説明がひと段落したからか確認して来たので、俺はこの世界のシステムがどういうゲームのシステムと似ているのかを探るために質問する。



「人間、一度覚えた技術はそう簡単に忘れんだろう?覚えている限りはどの職業でも使える。効果の程はお察しだがな」



…なるほど、職業固定のスキルツリー型かと思ったらそうじゃ無いのか…



コレで大体どういうゲーム系か当たりが付き始めてきたな。



「他には無いのか?」


「…あ、その…てっとり早く儲かる仕事…ってどういうのです…?」


「…腕に自信があり、強ければ冒険者一択だな。死ぬ危険性も儲かる可能性も一番高い」



おっさんの確認に俺が今一番知りたい事を聞くと、予想通り返答だった。



「魔法の才能があるのならヒーラーとして病院で働けば最小限の危険で儲かる。話術に自信があるのなら商人だな、安く買って高く売る…商売の基本をキッチリこなせば多少の危険はあるが腕しだいでは儲かるぞ」



…商人の多少の危険ってのは道中の山賊や犯罪者に襲われる事か…



元の世界でも海賊とか強盗とか居たし、そこら辺はあんまり変わらないかもな。



「それに今は商人の人材が不足がちだからな…早ければ今日にでも働けるかもしれない」


「商人が人手不足…?」


「最近の若いのはやれ勇者だ、やれ英雄だ…と冒険者に憧れを持ってるのさ。だから商人や職人になりたがるのは体力に自信が無い一部だけって話を良く聞く」



ふーん、元の世界でも多分同じだろうな。



俺だってチート並みの身体能力があれば迷わず冒険者だか旅人だかになってただろうし。



…世界が変わっても人の考える事は同じかよ。



「それじゃあ最期の説明だ。職業でステータスを変わる事は今話した通りだが、他に『称号』でもステータスは変わる」


「…称号…?」



…なんだそりゃ、アクションか?ただのロープレか?とりあえず格ゲーの線は薄そうだな。



「そうだ。職業はココか転職所でしか変えられないが、称号はどこでも好きな所で好きなタイミングで自分で自由に変えられる」


「転職所?称号の付け替え?」



いや、ちょっ…初めて聞くことだらけでこんがらがるんですけど。

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