心と部屋

ねもまる

第1話


 名は体を表す、住む場所は人を表す、などの言葉を聞いたことがある。

 他にも生活は体型に出る、感情は声に出る、美意識は爪に出る、清潔感は髪に出る、などなど。

 確かにそうなのかもしれない。

 私は六畳の部屋を見て思った。


 

 私は1年間勤めていた会社を辞めることになった。理由は上司のセクハラがひどかったからだ。入社して3ヶ月が経った頃から始まり、これが普通なのかと思ったが、そんなわけないと思い、辞めてほしいと勇気を出して言えたのがまたその3ヶ月後だった。でも上司はこれくらい挨拶の内だときっと非常識な常識を当てはめてやめなかった。

 1年頑張ってみたがどんどんエスカレートしていき、ストレスが酷くなって、ついにうつ病になってしまっていた。

 気がついた時にはだいぶ遅く、夢遊病も患っていた。

 朝起きて腕に知らない切り傷と、包丁がベットの横にあった時は本当に怖かった。

 最初は寝てる間に誰かが入ってきてやられたのかと思ったが、そんな友達を持った覚えもない。と言うか持ちたくない。泥棒が入ってきたのかと思ったが特に何も取られていなかった。

 おかしいなと思いながら会社に出勤した。

 その次の日も同じことが起きていて傷が増えていた。それから寝るのが怖くなっていき、不眠症にもなってしまった。

 ご飯も胃が受け付けず、10秒でエネルギー補給できるものと、口の中の水分を奪っていく高カロリーの物に食事が変わっていった。

 「最近すごい痩せてない?それに顔色悪いけど大丈夫?」

 「大丈夫?なのかな?分からない」

 同期の人に心配されてしまった。それほどまでに酷いのか

 もちろん仕事にも影響が出て、倒れてしまった。

 病院に行こう。

 やっとそう思えて、とりあえず大きい病院で診てもらったが、精神科に行ってくれと言われ自分の中に衝撃が走った。

「え、精神病なのですか?私」

 現実を受け止められず、医師に聞いた。

「おそらくその可能性が高いかと、なのでこちらの病院に私から連絡させていただくのでこの後行けますか?」

 淡々と告げられ病院のチラシを受け取って、かなりショックだった。


 これまでが辞める前に起きたことだ。

 私は田舎の地方から大学卒業と共に、東京ほど都会じゃないが都会の方に一人暮らしを始めて会社に通っていた。

 実家に辞めたこととうつ病、夢遊病のことを話し、戻ってこいと言ってくれた。

 そして地元に帰ることにしたのだ。

 今部屋は引っ越し作業もだいぶ進み、ベットしかない空っぽの部屋になっていた。


 髪の毛や爪、名前や住む場で外面はわかるのかもしれない。だが、心を表すことわざを私は聞いたことはない。

 きっと私の知らないところではあるのかもしれない。

 だけど、どうしてもこの空っぽになった部屋を見て私の心を映してるようにしか見えなかった。

 最初は充実させようと物を揃え、ワクワクで始まった部屋は、暮らしをしていく中で自分の好きなもの、落ち着く配置、かわいいぬいぐるみなどで埋められていた。

 でも今の私の空っぽな部屋を見て私の心も空っぽになったのだと思えて仕方なかった。

 名は体を表す、住む場所は人を表す、美意識は爪に、清潔感は髪に、などなどあるが私は心は部屋に現れると空っぽの部屋と心で深く思った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心と部屋 ねもまる @nemomaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ