第12話
男性にインスタントのスープを出して、互いにリビングのソファーに対面で腰掛けた。
男性は息を吹きかけながら、スープを啜る。しばらくは沈黙が続いた。
「……私がセレだというのは、先程に申し上げましたが」
「ええ」
「確かに、私はあなたに拾われた猫のセレです。本来の名はセレンと言うのですがね」
男性もとい、セレンさんは苦笑いしながらも緩々と説明を始めた……。
まず、私は本名をセレン・ウィリアムスと申します。実は、こちらとは違う世界からやって来たと言ってもあなたは信じられないでしょうね。
でも、本当なんですよ。私は元々、こちらとは異なる世界にあるフォルド王国で近衛騎士をしていました。
ですが、今から半年程前に事件が起こったんです。フォルド王国の現国王陛下がある悪徳魔法使いに王宮で襲撃されたのですが。その魔法使いは、陛下に雷魔法を放ちました。しかもいきなりです。この時に、私はその場に居合わせていました。咄嗟に、私は雷撃を放った魔法使いから陛下を身を挺して庇います。
背中に雷撃が当たり、もの凄い痛みや痺れるような感覚が背中を走りました。
あの感覚はたぶん、一生忘れないでしょうね。私は一瞬だったか、意識を失いました。気がついたら、剣だこがあるはずの両手は小さな肉球がついた前足に変わっています。声も「ミャア」とか「ミー」としか、出ません。どうやら、魔法使いは陛下を呪おうとしたのですが。出来ずに、代わりに私を呪ったようでした。
まあ、情けない話ですが、黒猫の姿に変わってしまっていたのです。しかも、魔法使いは異界に逃げようとしていました。まだ、襲撃されてからそんなに時間は経っていないようでしてね。私は魔法使いを追い詰めようと奴が展開した異界渡りの魔法陣に飛び込んだのです。
「……私は、異界に逃げた魔法使いを追いかけて、一緒にこちらに来ていました。その後も猫の姿ながらに、応戦はしたのですが。噛み付いたり、引っ掻いたりと。けど、結局は奴を取り逃してしまいました。私はこの時には傷だらけになっていたんです。そのまま、その場に倒れ臥していました」
「そうだったの、大変な目にあっていたんですね」
「ええ、気がついたら。魔法使いの手によるのか、ダンボールでしたか。分厚い紙の箱に入れられ、道端に捨てられていました」
セレンさんはそう言って、またスープを啜った。まあ、その後に彼を拾い、助けたのが私なのだが。
「……クミさん、あなたはいわば、私の命の恩人です。おかげで、あの魔法使いを捕らえる事もできました」
「は、はあ。それはどうも」
「本当に感謝しています、ありがとうございます」
私は居心地が悪くなりながらも頷いた。セレンさん、わざわざ私にお礼を言うために遠い異世界から来たのね。ちょっと、照れてしまうのだった。
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