第11話
私はあの後、必死でセレを探し歩いた。
けど、彼はどこにもいなかった。一体、セレはどこへ行ってしまったのか。悶々としながらも自宅へ帰った。
あれから、一週間経っても。二週間経っても、セレは戻ってこない。大きな喪失感を私は抱えながら、日々を送る事になる。
早いもので、セレが行方不明になってから一ヶ月が経っていた。私は何とか、暮らしていたが。いつも、変わりない生活だ。あのセレとの共同生活は夢だったのではと思う程になっていた。
いつもと同じように、会社に出勤して。帰り道、疲れを引きずりながらも歩く。けど、外灯の下で佇む一人の人影を見つけた。
黒いさらさらの柔らかそうな髪を短く切り揃え、青い瞳をした背の高い男性だ。よく目を凝らすと、男性はファンタジーかよ!とツッコミたくなる出で立ちだった。
赤い詰め襟の上着に黒の細身のスラックス。膝までの黒いブーツを履き、右手には鞘に収まった剣を携えている。まあ、あのセレに色彩は同じだなと思った。
男性はふと、こちらに気づいたらしい。目を開いて私の顔をじっと見つめてくる。
「……やっと、見つけた。クミさん」
「はい?」
「私です、あの黒猫のセレです!」
私は混乱の極地に落とされた。いや、いきなりあのセレだと言われてもね。ポカンとしていたら、セレだと名乗る男性は尚も言った。
「クミさん、私を忘れてしまったのですか?」
「……いや、あの。まず、あなたはどちら様ですか?」
「あ、すみません。嬉しくてつい、説明するのを失念していました」
「はあ、まあ。それよりもこんな道端で立ち話も何ですし、中にどうぞ」
「……え?」
「ほら、早く!」
急がば回れとはよく言ったものだ。私は男性の手首を掴み、自宅へと引っ張っていった。
自宅に引っ張り込み、私はドアを閉めた。男性はまだ、状況が分かっていないらしい。ポカンとしている。
「何にもないですけど、とりあえずは。上がってください」
「……分かりました」
私が言うと、男性はひとまず頷いてくれた。先にパンプスを脱ぎ、上がる。急いでショルダーバッグをソファーに置く。そのまま、キッチンに行った。オフにしていた電気ポットの電源を入れて。リビングに行き、エアコンの電源も入れた。暖房を当然ながら、利かせる。
「さ、お茶は後で淹れますので。まずは上がってください、寒かったでしょう」
「いえ、寒い中でいるのは慣れていますから。お気遣いなく」
「はあ、そうですか。でも、このままでいたら、風邪を引きますし。上がってください」
「……分かりました、では」
「あ、何か召し上がりますか?」
「そうですね、温かい食べ物があれば。スープがいいかな」
私は頷いて、またキッチンに行った。キッチンの下の棚などをガサガサと漁る。カップスープの素があったはずだ。見つけると、すぐにマグカップを出した。丁度よく、電気ポットのアラームが鳴る。私はマグカップにスープの素を入れると、お湯を注ぐ。スプーンでかき混ぜてひとまずはテーブルの上に置いた。
また、玄関に行き、ブーツを脱いで上がり込んだ男性に声を掛ける。
「あの、スープができましたよ」
「あ、早いですね」
「まあ、インスタントのスープですけど。ないよりはいいかと思いまして」
私が言うと、男性はふっと笑った。やだ、こうして明るい中で見たら。超がつくイケメンさんじゃない。顔が熱くなるのが分かった。
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