第3話

 翌朝、私はいつも通りに目を覚ました。


 ベッドから降りると、古いクッションと毛布にくるまって昨日に拾った黒猫のセレが寝ている。確か、昨日はバタバタしていてゆっくりと彼を見る余裕がなかった。よく見たら、綺麗で柔らそうな黒い毛並が目に入る。セレが瞼を開けた。これまた、綺麗なサファイアブルーの瞳がこちらを見上げる。


「……あ、セレ。おはよう」


「ミャア」


 答えるようにセレが鳴く。侘びしい独り身ではあるが、案外、猫と一緒の暮らしもいいかも。

 そう思いながらも、キッチンに向かった。


 軽く朝食を済ませ、身支度をする。私はふと気づく。そういや、セレに水をあげたか?

 トイレやおもちゃなんかも必要だよね。セレを連れて出掛けられるように、猫用のケージとかも買っておかないと。色々と考えながら、歯磨きや洗顔を済ませた。寝室に行き、外出用の服に着替える。


「よし、またあのペットショップに行こう」


 そう呟いて、両頬を手でぴしゃりと叩く。気合いを入れたのだった。


 急いで、準備をしたらペットショップに行った。時刻をスマホで確認した。まだ、午前十時前だが。セレのためだ。開いている事を願う。

 自宅から、徒歩で五分の所にお店はあった。ガラス窓に赤い色で「ペットショップ・ホリデー」とある。ここだと思い、入口を見た。

 ドアの取っ手には札がカケラている。「OPEN」と書いてあり、ほっと胸を撫で下ろした。ドアを開けて中に入る。


「いらっしゃいませ!」


「あの、すみません。また、猫用の品物を色々と見たくて。昨日は慌てていて、シャンプーとかキャットフードくらいしか頭になかったんですけど」


「……はあ、色々とですか。もしかして、猫を飼うのは初めてで?」


「そうなんです、教えていただけますか?」


「構いませんけど」


 店員さん――まだ、三十代くらいの女性――は不思議そうにしながらも、OKしてくれた。私は昨日の事を簡単に説明したのだった。


「……成程、その子を昨日に拾ったんですね。なら、野良猫は警戒心が強いですから。最初は慣れるまで、辛抱強く付き合われた方が良いでしょう」


「分かりました、あの。猫を買うのに必要な物は何があるんですか?」


「そうですね、まずは。キャットフードや水に。トイレやそれ用の砂、後はおもちゃに。あ、猫は毛を舐めたりするので。毛玉を吐き出す用の草や爪とぎ用の板、爪切りなんかも必要になってきますね」


「成程、ふむふむ」


 私はショルダーバッグから出したメモ帳にボールペンで書き込む。店員さんは一通りの説明を終えたら、また奥に向かう。しばらくして、両手に水用の皿やトイレ用品、砂袋などを抱えて戻ってきた。


「とりあえず、最低限に必要な物は取ってきました。草や爪とぎ用の板も付けておきますね」


「わざわざ、ありがとうございます。じゃあ、急いでいるから。このまま、全部買います」


「分かりました、お会計をしますね」


 店員さんは頷くと昨日と同じように、レジに向かった。お会計を済ませたのだった。


 速歩きで自宅に戻り、セレに水とキャットフードをあげる。トイレをリビングの隅に設置して、教えてもらったように砂を入れた。セレを呼び、トイレに行くように誘導する。向こうも分かったらしく、来てくれた。セレが用を足すのを見届けたら、後始末をする。買ってきたケージを取ってきた。


「さ、セレ。獣医さんに行くから、この中に入って」


「……ミャア」


 セレは渋々といった様子で猫用のトートバッグの中に入った。チャックを閉めて、紐の部分を持つ。店員さんが「これなら便利ですよ」と勧めてくれたものだ。大きめサイズのバッグで大人のセレでも余裕だった。こうして、近所の獣医さんに向かった。

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