第2話

 濡れてもよい厚手のトレーナーにズボンを履く。


 色はどちらもグレーだ。これなら、まあ困らないだろう。腕まくりをした。ダンボールから黒猫を抱き上げ、シャンプーや

 リンスも片手に持つ。風呂場へ直行だ。


「……ンミャア」


「ああ、何をするかって?お前を洗うのよ」


「ミャ?!」


 黒猫は驚いたらしく、大きな声をあげる。私はお構いなしに風呂場の床の上に黒猫を降ろす。先程まで、大人しかったが自分が洗われるとわかったからか、ビクビク震えている。今にも逃げ出しそうだ。私はむんずと首根っこを捕まえて洗面器の中に入れた。シャワーヘッドを取り、黒猫の全身を濡らす。ぬるま湯で一通りしたら、シャンプーを取る。蓋を開け、中身を手のひらに出した。


「さ、洗うよ!」


「ミャア!!」


 悲痛な叫びを上げるが、私は無視してシャンプーを泡立てる。ワシャワシャとまずは背中から洗う。次にお腹や尻尾などを順にしていく。最後に顔や頭を洗った。確か、耳の中に水を入れちゃいけないと昔に聞いたな。思い出しながら、注意して全身を隈無く洗ってやった。


 再び、ぬるま湯を出して泡だらけになった黒猫の体をすすいだ。丁寧にしたら、蛇口を閉めてシャワーヘッドを戻す。


「終わったよ、明日は獣医さんだね」


「……ミャア」


 どことなく、元気がない。私は洗面器から黒猫を出す。壁にある棒から、バスタオルを取るとごしごしと濡れた体を拭いてやった。後でドライヤーで乾かさないと!

 張り切ってバスタオルにくるみ、風呂場を出たのだった。


 ドライヤーで黒猫の全身を乾かしてやる。ついでに、店員さんがおまけでくれた猫用のブラシで毛を整えた。いわゆるブラッシングだ。黒猫はこれは気持ち良いらしく、うっとりとしている。

 これでひとまずは身支度はオッケーかな。私は立ち上がると、テーブルに向かう。レジ袋からキャットフードと皿を出した。ハサミで開けたら、皿に中身を出す。


「ほら、お前のだよ。たんとお食べ」


「ミャアー」


 黒猫は機嫌良さげに鳴く。フローリングに置くと、黒猫は静かにやってくる。キャットフードの匂いを嗅いでから、ゆっくりと食べ出した。カリカリと小さく噛み砕く音が響く。お腹が減っているらしい。気がついたら、黒猫は全部平らげていた。


「本当に腹ペコだったんだね、お前」


「ミャア」


「……そうだ、一緒に暮らすんだったら。名前をつけないと」


 私はしばし、考え込んだ。


「ううむ、たぶん。雄だから、セイン?」


 黒猫はセインと呼んでもふいと顔を逸らす。気に入らなかったようだ。


「……じゃあ、セレは?」


「……ミャア!」


 今度は機嫌良く、鳴いた。私の言葉が分かるの?!

 驚いたが、ひとまずはスルーした。


「よし、今日から。お前はセレね、よろしく!」


「ミャア」


 また、黒猫もといセレは鳴いた。明日は獣医さんね、内心で呟いたのだった。

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