はつふゆ
入江 涼子
第1話
私は初冬のある日、アスファルトの道を一人で歩いていた。
コツコツとパンプスを鳴らしながら、冬空を見上げる。ヒュウと木枯らしが吹き抜けていく。ああ、寒い。懐が特にね。そんな事を内心でぼやきつつ、家路を急いだ。
「ミャアー」
「……ん?」
ふと、高めの猫らしき鳴き声が聞こえた。右側に顔を向けるとそこには、ダンボールに入れられた傷だらけの黒猫がいる。コイツだったか。私はそのまま、通り過ぎようとした。
「……ミャア」
「……」
もう一回、黒猫が鳴く。仕方なく、私は足を止める。ダンボールに近づいた。
「お前、行くとこがないみたいね」
「ミー」
「ふむ、しょうがない。お前を見つけたのは私だしね、しばらくは置いてあげようかな」
独り言を呟きながら、キョロキョロと辺りを見回す。よし、誰もいないわね。ダンボールごと両手で抱えて、帰った。
自宅もとい、借家に帰るとダンボールを玄関に置いた。まずは黒猫をお風呂に入れて、それから。考えながら、パンプスを脱ぐ。
けど、猫用のシャンプーやリンスってあったか?
キャットフードとかもよ。ないじゃん、どうすんだ?!
女らしからぬ言葉遣いになりながらもため息をつく。仕方ないから、ペットショップか獣医さんに行くしかないわ。
まずはペットショップに行って来るか。そう思い、再度パンプスを履き直した。
ペットショップは開いていた。入って、店員さんに速攻質問する。
「あの、すみません。猫用のシャンプーとリンスはありますか?」
「……はあ、ありますけど」
「後、キャットフードも欲しいんですが」
「ありますよ、ちょっと。待っててくださいね!」
「はい!」
店員さんはたちまち、慌ててお店の奥に行ってしまう。私はドキドキしながら待った。
店員さんがしばらくして、猫用のシャンプーやリンス、キャットフードの袋を両手に抱えて出てくる。
「持って来ました、これで足りますか?!」
「はい、本当にいきなりですみません。おいくらになりますか?」
「あ、レジに持って行きますね。全部で……」
店員さんはレジまで品物を運び、お会計をしてくれた。ちょっと痛い出費だが、これも黒猫のためだ。そう思う事にする。シャンプーやリンス、キャットフードをレジ袋に入れてもらい、ペットショップを出た。
その後、急いで帰宅する。黒猫は大人しく待っていた。と言うか、暴れまわる程の元気がないらしい。私は買ってきた品物をリビングのテーブルの上に置く。
「さ、シャンプーとリンスを出してっと」
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