小説談義
「何しているの?」
ソファで蹲って倒れている飯野さんを見た僕は素直な感想を口から漏らす。
「……うぅ。昨日の蓮くんの美味しいごはん食べた後でまたカップラーメンに戻るのが嫌で、嫌で……いつの間にかお腹空いていた」
「馬鹿なんですか?」
次に放たれる飯野さんに言葉に僕は思わず敬語で言葉を返す。
「……朝もお昼も食べてないよぉ」
「昨日、朝ごはんも作ってあげると言っていたじゃんか……起きてこない方が悪いでしょ。じゃあ、夕食の前に簡単なものを作ってあげるからそれで我慢して」
「わーい」
僕の言葉を聞いた飯野さんがソファの上で両手を上げて喜びを露わにする。
「ふんふんふーん」
そんな飯野さんを横目に僕はキッチンですぐに出来るものを作り始める。
今日は簡単に作れる混ぜうどんでも作っていこう。
まずは冷凍うどんをレンジでチン。その間におす、オイスターソース、しょうゆ、しお、さとう、ごま油を混ぜてタレは完成。
後はレンチンしたうどんとたれを混ぜてその上にネギと卵の黄身とごまをかければ料理の全工程は終了である。
「はい、これ」
「おー!凄い!」
僕の作った混ぜうどんを受け取った飯尾さんが素直に歓喜の声を上げてくれる。
こんな簡単な料理で満足してくれるとは……お手軽な女性である。
「おいしぃ」
飯野さんが僕の作った混ぜうどんを食べている最中、僕は再びキッチンに戻って夕食の下準備をしていく。
「それで、蓮くんの小説なんだけどさ」
混ぜうどんを食べ終えた飯野さんが僕へと話を振ってくる。
「あっ、はい!」
それに対して僕は体を少しだけビクつかせながら声を上げる。
「読んだ感想としては全体的なレベルとしてはそこまで悪くないかな、って思うよ。特にストーリは良いかなぁ、って感じ。話の流れは丁寧だし、緩急もついているしいいと思う。ただ、キャラの動かし方が雑。キャラ設定自体は良いのに、それがブレブレで場面場面で変わっちゃっているし、魅力的な動きをさせられていない」
「うっぐ」
流石は大人気漫画家というべきか……実に痛いところをついてくる。
吐きそうになってくるよ。
「これはべたな話にはなるけどさ、一番簡単なのが徹底的にそのキャラへの役割を作ることかな。これを意識するだけで出したはいいけど扱いに困ったというキャラがいなくなるから。ちなみに一つだけだとその役割を終えた段階でそのキャラが死んでしまうので、終えた時点でサクッと処理するか、もう一つ後半に山場をもって来れるようにしておいた方が良いよ」
「……なるほど」
僕は飯野さんの言葉に頷く……うむ。すっごく参考になる。僕ってばとりあえずハーレム作品にするため、女の子キャラを早々にたくさん出して、結局そいつらの扱いに困るということが多々あるから余計に……。
「あれ?もしかして飯野さんの漫画で割とメインキャラがサクサク殺されるのは……」
「あぁ、うん。もうそのキャラの役目が終わったからだよ?例えばの話さ、主人公の師匠ポジで背中を押す系のキャラとかを生かしておいても手に余るじゃん。殺すのが一番後腐れないし、ぐだらないと思うんだよねぇ」
「……キャラへの愛はないんか?」
「別にそんなの必要じゃないでしょう?ないと言えば嘘になるけど、私としてはそもそも死ぬキャラとして作っているから……死んでもそこまで……逆に蓮くんはキャラへの愛ってある?」
「いや、僕もあまり……同時に幾つも連載していたり、月一ペースで完結させて新しい小説を投稿したりしているとその作品のキャラの細かい設定とか忘れてきちゃうし……」
「あっ、それはダメだよ?過去作でも自分のキャラがどんなので実際にそれを動かしてみてどうだったかを考えないと……たまに勝手にキャラが動くこともあるじゃん?あぁいう感覚とかもただの経験とかで済ませるのではなくしっかりと分析してどういう原理でどういう情熱の元で動いていたのかもしっかりと考えていかないと」
「なるほど」
僕は飯野さんの言葉に頷くと共に水にぬれていた手をぬぐって彼女の元に向かう。
「あ、あれ……?こっちの方に来て大丈夫?も、もしかして邪魔しちゃった?」
「えぇ。下処理の方は終わったので。ちょっと続きを聞きたいです」
「そ、そう?……それなら良いけど。えっとそれじゃあね……」
僕の言葉に頷いた飯野さんは続きを真面目な表情で話し始める。
「はい、はい」
僕はこれまで見てきたダメ人間としての飯野さんではなく、画面の外側から見続けていたカリスマ的な大人気漫画家としての一面をまざまざと見せつけられ、情景を覚えると共に普段とのギャップにちょっとだけドキドキとしながら話を聞いていくのだった。
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