オタクに絡むギャル

「ふんふんふーん」


 僕は自分で小説を書いていることを隠しているわけではないし、堂々と学校でも小説を書いている痛いオタクである。

 そんな僕ではあるが、一応友達はいるし、そこそこ交流もあるが、それはそれとして陰キャよりのぼっちではあるので、昼食とかをみんなでワイワイ取るのは好きではない。


 ゆえに基本的に僕は昼食の時間はPCとお弁当を持って誰もいない空き教室へとやってくるのだ。

 一人でいそいそと空き教室の机に自分が自作しているお弁当広げていく僕。


「やっほー!オタクくんいるぅー?」


 そんなところに元気な女子の声が響いてくる。


「……また来たのぉ?」

 

 声がしてきた方に視線を向ければそこにいたのは一人の金髪の女子。

 腰にまで伸びる金色に染められた軽くウェーブのかかった髪に青のカラコンが入った瞳、耳に着けれた幾つものピアス。

 完全にギャルとしか言えない見た目をしている少女である。


「毎日のように来るじゃん」


「良いではないか、良いではないか」


 お弁当箱だけをもって僕のいる空き教室にまでやってきた彼女は何の躊躇もなく僕の座っている席の前の席を動かして向かい合わせで座ってくる。


「一緒にお弁当食べよー」


「まぁ……良いけど」


 僕のことをオタクくんと呼ぶ正気とは思えぬこのギャルの少女は大宮和葉。僕のクラスメートであり、いわゆる一軍女子と言われる子である。


「いつも僕と食べてて良いの?ほら、他の子とかもいるじゃん。いつも仲良さそうにしている女の子とか」

 

 ぼっちめな僕とは違って、和葉にはたくさんの友だちがいる。

 その子たちと食べた方が吉であろう。

 何故、そのような和葉が僕のような木っ端ぼっちと毎日にのようにお弁当を食べようとするのか……一か月もこの関係が続くのか。

 

 正直に言えば内心ではちょっと……いや、だいぶ嬉しいです。美少女が僕に構ってくれて。

 まぁ、そんな感情を表に出したところで違う次元を生きる和葉には軽く流されて終わりだろうけど。


「私はオタクくんと食べたいのです……ということでこの唐揚げ貰うね?」


「……僕のことをお弁当だと思っていらっしゃる?」


 自分の弁当箱を広げた瞬間に僕の唐揚げを強奪していく和葉に対して僕は疑問の声を上げる。

 僕が丹精込めて作っているお弁当をいつも彼女は強奪していくのだ。


「オタクくんのお弁当が美味しいのがいけないんだよー。オタクくんのおかあさん料理美味いねー」


「……?自作だけど?」


「……え?自作なの?」

 

 僕の言葉に和葉が信じられないと言わんばかりの表情を浮かべて告げる。


「これ、全部?」


「うん。全部。というか、僕は両親が海外の方に行ってお仕事している最中だから。家事とか全部僕だよ。当然料理も」


「えぇ……?オタクくん本気で言っているぅ?」


「マジだけど。どれだけ信じたくないねん」


「……えぇ」


 僕が自作であるという現実を受け入れた和葉はチラチラと自分のお弁当を見下ろしながら口をもにょもにょさせている。


「……どうしたの?」


「これ、あげる!交換だよ!」


 僕の疑問に対して和葉が勢いよく自分のお弁当にあった唐揚げをとって一つくれる……ちなみにこのおかず交換は毎日のように行っている。

 和葉のお弁当を作っているという彼女のお母さんには悪いけど料理の腕は普通に僕の方が良いんだよなぁ。

 劣化して帰ってくる。


「……ありがとう」

 

 僕は貰った唐揚げに対して素直にお礼を告げてそれを口に含む。


「……どうかな?美味しい?」

 

 もらった唐揚げを飲み込んだのを確認した和葉がおずおずとした雰囲気で僕に尋ねてくる。


「うん。美味しいよ。なんかいつもと違う味だけど……どことなく料理初心者感があるような気がするけど、しっかりと基礎が抑えられた美味しい唐揚げだね」


 いつもは感想を聞いてこないのにいきなりどうしたのだろうか?そんなことを考えながら素直な感想を告げる。


「……それは誉め言葉だよね?」


「誉め言葉だよ」


 料理下手なうちの母は何故かうまくもないのに工夫とか言ってとんでもない狂気のアレンジを加えるからな。

 正しいレシピを正しく踏んだ料理が如何に素晴らしいことか……お父さんは今頃海外で飯に困っていることだろう。

 料理下手なくせにお母さんは料理を作ろうとするし。


「……よし」


「ん?どうしたの?」

 

 僕は謎に小さなガッズポーズを取り出した和葉に首をかしげる。


「いや!なんでもないよ!ほら!早く食べないと時間に遅れちゃうよ!」


「……なんかなぁ?」

 

 僕は和葉の言葉に頷きつつ和葉と雑談をしながら食事を進めるのだった。


 

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