雇用契約

 僕が料理を飯野さんへと提供してからしばらく。

 

「ご馳走様でした」


「お粗末さまでした」

 

 僕と飯野さんは互いに手を合わせて食後の挨拶を口にする。


「本当に……美味しかったわ」

 

 すべてのビーフシチューを胃の中へと収めた飯野さんは満足げに頷く。


「そうであるならうれしいです」

  

 食後のお茶をすすりながら僕と飯野さんは互いに雑談を交わす。


「それにしても中々にきれいな部屋ね」

 

 僕の部屋を眺める飯野さんが口を開く。


「飯野さんには中々扱いされたくないよ?普通に超絶凄いって言って欲しいね」


「ごめんなさい。少しでも年上らしさ出したくて上からなっちゃいました。すっごくきれいです」

 

 僕の家はあまり物が多いと掃除が面倒なのであまり物は置いていない。

 だから、綺麗に見えるのもある。


「それにしても、テレビとかはないのね」


「まぁ、そうですね」

 

 うちの家にはテレビはない。

 3LDKとなっている我が家はリビングの部分にテレビではなく僕が小説を書いたり、ゲームしたりするときに使うゲーミングPCが置かれている作業スペースが広がっている。

 そこにテレビが置かれる隙間はない。

 

 ちなみに後三つの部屋に関してだが、まず一つが僕の寝室。もう一つが書斎、あともう一つが来客用の部屋となっている……あんまり来客来ないけど。


「テレビなくて不便じゃないの?」


「別に見なくない?大きなモニターでアニメとか見たいドラマをネット配信で見れば十分ですし……地上波とか見なくない?」


 ニュースなんてテレビで見なくともスマホのアプリで良い。

 それに信ぴょう性に関してもテレビのも疑わしいものも多いし、普通にSNSとかで転がっている情報の正しいなんてこともありそうだし、海外の情報であれば海外の人の発信とかを見たりした方が確実だと思っておる。


 地上波でやっている番組とかだって別にわざわざ時間を合わせてまで見たいものなどない。

 ならばもうテレビなんていらないでしょ、と僕は考えている。NHKにも勝てるしね。


「……そ、それでもテレビがいらないとは。これが、ジェネレーション、ギャップ?」


「まぁ、僕が極端なだけかもしれないけど」


「まぁ、確かに言われてみれば私もテレビは要らない気がするしね。それで……ゲーミングPCだよね?あれ」


「そうですね。親の金で買いました」

 

 実家が太いってのは最高の札だと思う。異論は認めない。


「良いわね……ねぇねぇ、今の子はゲームとか何をやっているの?」


「自分はラノベが好きなこともあって本を読んでいたりする時間の方が多いんであまりゲームとかやらないけど。それでも僕はスプラとかやるかなぁ。最近新しいマニュが来て大歓喜中」


「あぁ、あのゲームね。私も1の頃はやっていたわ」


「あー、あの時代。自分は3から始めているんで特には知らないんですが……環境が凄かったことだけは知っている」


「結構なカオスだったよ……ラノベかぁ。私も確かコミカライズ担当したことがあったなぁ。もう完結しちゃったけど」


「あぁ、あれ読んだよ。いつも通り面白かった」

 

 飯野さんがコミカライズした作品も非常に面白かった。原作勢としても納得できるような内容で本来の持ち味も出してくる神作だった。

 ちなみに彼女は高校生の段階でデビューしているとんでもない人である。


「あっ!読んでくれた?ありがと」


「うん、読んだよ……僕も自分が書いている小説が書籍化したコミカライズされてみたいものだよ」


「えっ?蓮くんも書いているの?」


「書いているよ。カクヨムっていうウェブサイトに投稿しているよ」


 これでも総合週間ランキング一位なのだという自慢は腹のうちに仕舞っておこう。

 だって相手は週間売り上げランキング一位の大人気漫画家なのだから……勝てる要素が一ミクロンもない。


「ラノベ、ねぇ……私で良ければ監修してあげようか?一応これでも人気漫画家だし、文章を書く上での語法とかはわからないけど、ストーリーだったりキャラや舞台の設定とかならアドバイス出来ると思うわよ」

 

 僕がライトノベルを書いており、それをウェブサイト、カクヨムにあげていると聞いた飯野さんはそんなことを言ってくる。

 一応どころか超絶大人気漫画家である飯野さんが、アドバイスをくれるなどという超絶贅沢なことを。


「えっ……?良いんですか?」

 

 そんな飯野さんの言葉に対して僕は驚愕しながら言葉を漏らす。


「別に良いわよ?大したことじゃないしね」


「いやいや、そんなことないですけどね!?ほ、本当に良いんですか……?」

 

 全然大したことある。

 あまりにもありがたすぎる話である。


「全然良いわ。これくらい……で、でもね?そ、その代わりとして、さ。またご飯を作ってくれたりしてほしいなぁ」


「毎日僕の味噌汁を飲んでください」


 僕は飯野さんの言葉に即答する。


「ふぇぇぇ!?」


 あの伝説のアネモネさんに自分の小説を読んでもらえるとか贅沢にも程がある……毎日三食しっかり食べさせても遥かにおつりが来てしまうだろう。

 これを断る選択肢なんて僕には一切なかった。




 あとがき

 たまたま今日の僕の夜ご飯もビーフシチューだった。美味しかった。母よ、感謝。

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