(8)

 そして、隠し通路を抜け……王宮の「不浄門」の前の通りの飲み屋街 兼 葬儀屋街に有る宿屋 兼 飲み屋に偽装した建物の1つを出て……。

「おい、若いのに、もうヘバってるのか?」

「すまん、いつもは馬を使ってるんでな……」

 草原の民の女の子は……少し走っただけで、息が荒くなってる。

「がじぃ……」

「がじぃ……」

 2匹の鳳龍達の内、赤くて元気が良さそうなのは「こっちだよ」と言った感じの反応。青くて大人しそうなのは、心配そうに草原の民の女の子の方を見ている。

「わかった、ボクがおんぶする」

「へっ?」

「遠慮せずに乗って」

「あ……ああ……わかった」

 ボクは草原の民の女の子をおんぶし……走る走る走る走る走る走る……。

「お前は……どんだけ体力有るんだ?」

 サティさんは呆れた口調でそう言った。

 まぁ、貧乏貴族だったんで、召し使いも大した人数雇えなくて、ボクが力仕事までやってたんだけど……。

 ともかく、走ってる内に……。

「うわっ?」

 足が滑りそうになるけど……何とかバランス……バランス……ああ、やっぱり……。

 足が滑りそうになった原因は血糊だ。

 辺り一面、兵隊さんの死体、死体、死体、また死体、更に死体、以下略。

 そこでは……草原の民達が……1人の獣化能力者ワーアニマルと戦っていた。

 金色の熊のように見えるけど……熊にしては、やや細身。

 良く見ると、胸には……小振りだけど2つの乳房らしい膨らみが有る。

 ラートリーは槍で……。

 背は低いけどがっちりした体格の男は両手に1つづつ斧を持って。

 中肉中背ぐらいの男は刀で。

 女の人とグリフォンガルーダの部族の族長は弓で援護。

 更にラートリーの妹は……魔法で作り出したらしい氷の矢や刃を飛ばして熊女を攻撃。

 命中してはいるけど……傷はすぐ治癒なおっている。

「あ……しまった……」

「どうした?」

「この子たち……ラートリーに一番……なついて……」

「駄目だったか……ともかく……こいつなら、獣化能力者ワーアニマルを殺せるんだったか?」

 サティさんは、そう言うと……。

「使えッ‼」

 そう叫ぶと、ラートリーの方に獣化能力者ワーアニマル殺しの刀を加工した槍を投げ……。

「どうなってるのかは……後で、ゆっくり訊く」

 槍を受け取ったラートリーは、熊女を槍で斬り付け……。

 えっ?

 普通の傷……。

 右の肩口から、胸、そして左の脇腹へ一直線の……。

 でも……。

「なるほど……それが伝説の『天子殺し』か……」

 熊女は平然とそう言った。

 ブンッ。

 熊女の爪が横殴りにラートリーを襲う。

 間一髪で、ラートリーは、それを避け……。

 獣化能力者ワーアニマル殺しの筈の刃で付けられた傷は、既に塞がり始めている。

 何故、獣化能力者ワーアニマル殺しの刃が効かなかったのか……それを考える事なく、役に立たないなら捨てる……。それがラートリーの選択だった。

 そのままラートリーは熊女の腕に飛び付き……全身の筋力を総動員して熊女の肘関節をし折るつもりらしい。

「うがあああ〜ッ‼」

「喰らえっ‼」

 熊女の腕だけの力と、ラートリーの全身の力では……熊女の方が勝っていた。

 けど……ほぼ正方形ましかくの胴体から手足と頭が生えてるような体型の男が、もう片方の腕に飛び付き……。

 ドゴオッ‼

 次の瞬間……あまりと言えば、あまりな格好の人物が熊女に飛び蹴りを食らわせた。

 更に……その……使を着てる……その子は……熊女の両耳を掴むと、頭突き。

 予想外の攻撃を2連発で食らった熊女が怯んだ隙に、熊女の頭を飛び越えて背後に回り込み……。

「待たせたな」

「何で来た?」

「お小言は……後で聞いてやんよ」

 の両腕が熊女の首を、両足が胴を絞める。

「どんだけ傷を付けても、すぐ治癒なおる奴だろうと……どんだけ根性が有る奴だろうと……これなら……」

 サティさんは……呆然とした表情で……。

「な……何故……何故……殿が、ここに?」

「呼んだ?」

 その声の主は……ボクたちが探してる途中だった第2王女。

 でも……サティさんの視線の先に居るのは……。

「こ……この膂力ちから……貴様……まさか……」

 熊女は息も絶え絶えな声。

「ま……あんたの予想通りだな」

 そう答えるアスラン。

「おい、魔法使い。あの鳥を撃て」

 草原の民の女の子が、そう叫んで指差す先には……。

 銀色の狼男の時と同じ……。

 一見すると鳩か何かに見えるけど……ずっと同じ位置ところに留まり続けてる変な鳥。

 ラートリーの妹は氷の刃を……サティさんは炎の矢を放ち……。

「ぐわあああ……‼」

「ぐぎゃっ‼」

 2つの悲鳴が、ほぼ同時に響く。

 1つは……熊女が白目をむいて気絶する直前に放った声。

 もう1つは……鳥のような姿の「使い魔」の声。

「ど……どう言う事? なに、この声?」

「魔法による攻撃で『使い魔』を撃破すると……『使い魔』のあるじも『反動』を食らう。さっきのは……あの『使い魔』を使ってた魔法使いの悲鳴」

 ラートリーの妹は、そう説明してくれたけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る