(5)

「お……おい、待て……」

 今までのやりとりを聞いていた隣国の王子様が声をかけた。

 その時、ラートリーが苛立たしい感じで何かを言った。

 それに対して、黒髪の女の子が……しれっとした表情かおで何かを答える。

 どっちも……知らない言葉だ。

「な……何?」

「『わざと、こっちの言葉で話し掛けたな』と訊いたんだ……」

「お……お前……私の代りに王女と結婚しようとしてる奴を……知っているのか?」

「違う。理由は話せんが……あいつは絶対に王女と結婚出来ない」

「そもそも、その何とかと云う奴は、どこの何者だ?」

 ラートリーは困ったような表情……。

「じゃあ、用も済んだ事だし、私は行かせてもらう。『グリフォンガルーダ』の部族の族長が国王に謁見する際の供なのでな」

 とんだ爆弾を投げ込んだ女の子は、何の感情も浮かべていない表情かおのまま、ボク達の横を通り抜けていった。

「と……ともかく、謁見の間の次の間に……」

 王女様のフリしてるお嬢様は、みんなに、そう声をかける。

 何とか謁見の間の次の間に着いたけど……扉の隙間から、謁見の様子を覗くしか無いけど……全員は無理。

 隣国の王子様が自分だけ覗こうとしたけど……。

「……」

「どうしました?」

「……」

「あの……」

「言葉が判らん……」

 女騎士のウシャスさんが代りに覗く。

「族長の供は、さっきの奴を入れて4人……妙だな、族長の供は全員、若い」

 それを聞いたラートリーは舌打ち。

「お前……何を知ってるんだ?」

 隣国の王子様の護衛の騎士が、ラートリーに、そう訊いた。

「えっ?」

 だが、ウシャスさんは、あっけにとられたような声をあげる。

「どうした?」

「祭の話だ……」

「へっ?」

「草原の民の夏至の祭……『ナーダム』の話をしてる……」

「それと、その何とかと云う男と何の関係が有る?」

「ええっと……『勇士の中の勇士』タルカン・バートルの称号を授かったのは……草原の民の夏至の祭の武芸大会で全種目3年連続優勝をした者……で、その者が陛下の命令で、今、王都に居るので、次の夏至の祭までに、草原に戻せと……。草原の民の猛者もさ達は、絶対王者が出場しない武芸大会で優勝しようと、それを名誉とは思わぬだろう、と……」

「で……では……の結婚の話とは何の関係も無いんですね……」

 王女様のフリをしてるお嬢様の問いに、ウシャスさんは……首を縦に振った。

 ……でも……何故か、顔色は真っ青で……首を振るまで……結構な時間がかかった……ような気がする。

「だが……何で、そいつは国王の命令で王都にやって来た?」

「そ……それが……その……」

「まさかと思うが……」

 ラートリーの表情は……地獄に居るかのような感じだった。

「おい、迂闊な事を言うんじゃ……」

 魔法使いのサティさんが、そう言ったけど……。

「今……最悪の事態が頭に浮かんだ。私1人の胸にしまっておくには耐えられん位の最悪の事態だ」

「だったら、お前1人の胸にしまってろ」

「さっきのあいつの事を忘れたか? 遅かれ早かれ、奴か……謁見の間に居る他の草原の民の誰かがバラす。あいつらが、自分達の意図を隠さない事こそ、あいつらの望みを叶える最適な手段だからな」

「だから……何を言ってる?」

「今、『グリフォンガルーダ』の族長が国王に伝えている草原の民の総意……それは……、って事だろ」

 全員が……ウシャスさんの方を見た……。

「馬鹿野郎が……」

 ウシャスさんの口から出たのは……死ぬ寸前の病人みたいな声。

 もちろん……言葉尻だけなら、ここに居る全員が訊きたい質問の答じゃない。

 でも……全員が理解した。

 ラートリーの言った「最悪の事態」が起きている事を……。

「ま……待て……どうなってる? 国王の血筋以外の者が……国王になれる筈が……」

「殿下……」

 うろたえる隣国の王子様に、護衛の騎士が声をかける。

それがし、全てを説明出来る仮説が頭に浮かびました。タルカン・バートルなる者は、この国の王女殿下と絶対に結婚出来ない。しかし、この国の国王には成れる。ならば、答は1つです」

「何だ?」

「タルカン・バートルなる者の正体は……草原の蛮族どもに預けられ育てられた……

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