(6)

「な……」

 それを聞いた隣国の王子様はドアを開け……。

「お……お待ち下さい、国王陛下ッ⁉」

「ちょ……ちょっと……待って下さい……待つのは……」

 続いて王子様の護衛も飛び出す。

 謁見の間に居た、草原の民の服を着てる中で一番齢の男が王子様に近付き……。

 どてんッ‼

 王子様は、あっさり投げ飛ばされる。

「貴公が、この国の第一王女と結婚したいと申し出ている西の蛮族の酋長の息子か?」

「えっ?」

 その男……多分、『グリフォンガルーダ』の部族の族長……は、こっちの言葉でにそう言った。

 そして、床に倒れてる王子様を一瞬だけ見ると……。

「これが西方に居るとか言う醜豚鬼オークとやらか? 珍しいものを見物させていただいた礼を申し上げる。人外の者に粗末とは言え人間用の服を着せて従者にするとは、変った風習だが、異民族の事ゆえ、とやかくは言うまい。だが、従者の躾が成っておらんのは感心出来んな……」

「き……貴様……」

「わざと……? それとも素でやってるの?」

 ボクは、ラートリーに小声で、そう訊いた。

「知るか……」

 どうやら、『グリフォンガルーダ』の部族の族長は……品が良さそうな方を王子様と勘違いしたか……そのフリをしてるようだ。

「我等、草原の民は……『勇士の中の勇士』タルカン・バートルが、この国の次の統治者に相応しいと考え……貴様ら蛮族どもは、蛮族の酋長の息子と、この国の第一王女を結婚させ、この国を乗っ取る事を目論んでいる。ならば、話は簡単だ。貴公が、タルカン・バートルに匹敵する勇士である事を証明すれば、我等も、貴公とこの国の第一王女の結婚に異議は唱えん」

 だから、そいつ王子様じゃないって。

 王子様よりは多分人間としてマシだけど。

「あ……しまった……受けるなッ‼ 絶対に受けるなッ‼」

 ラートリーは大声で叫んだけど……。

 王子様と勘違いされてる従者と、醜豚鬼オークの従者と勘違いされてる王子様は顔を見合わせ……。

「具体的には、どうすればいい?」

 従者の方が、そう答え……王子様は「それでいい」って感じて、首を縦に振る。

「ここに居るのは、皆、我々草原の民の夏至の祭ナーダムの武芸大会のいずれかの競技で2位から3位となった者達。タルカン・バートルには一歩劣るにせよ、草原の民が誇る勇士達だ。馬の長距離走、馬の短距離の障害物競走、弓術、剣術、徒手格闘すもうのいずれか一競技で、我々の代表に勝てたならば……我々草原の民も、貴公をこの国の王女の婿に相応しい勇士と認める事にやぶさかではない」

「判った、受けよう」

 ラートリーは……唖然とした表情かおになり……。

「しゅ……しゅ……主従そろって……底抜けの間抜けか……」

「ルールは、こちらのやり方に従ってもらうが、こちらの代表は絶対王者ではなく、それより数段劣る者達だ。それで、五分の条件と納得していただけるか?」

「良かろう」

「では、畏れながら、国王・王妃両陛下、我々がこの勝負を申し出た事と、この者達が勝負を受けた事の証人をお願いしてよろしゅうございますか?」

「あ……ああ……よ……よかろう……」

「は……はい……」

「では、勝負の日取りはいずれ……」

 エラい事になった……と思ったら……ラートリーは周囲を見回して、真っ青な顔色になっている。

「おい、私達をここまで連れて来た奴は、どこへ行った?」

「え……あれ……おい、まさか?」

「あいつを宮廷内で見た覚えは?」

 何かに気付いたらしい……ウシャスさんとサティさんは……こっちも真っ青になって首を横に振る。

 そして……草原の民は謁見の間を退出し……その内の1人……さっきの女の子は……あからさまにこっちの誰かを挑発してる感じの勝ち誇った笑顔をボク達に向けた。

 草原の民が居なくなった後、王様はボク達の方を見て……。

「ところで、何で、そろって、ここにる?」

 けど、ラートリーは王様を無視して……。

「お前、何で、あの勝負を受けたッ⁉」

 ラートリーは、隣国の王子様の従者の胸倉を掴む。

「な……何を言っている? あの状況では……その……」

「自分がやった事を理解してないなら、教えてやる。どうやら、その王子様より、あんたの方が武芸の腕前が上なんで、王子様の代りをやるつもりだろうが……」

「おいッ‼ ま……待て……」

 みんな薄々感付いてた事を指摘しただけなんだけど……王子様は流石に抗議の声。

?」

 あっ……。

「王女の婿候補の隣国の王子様に、草原の民が異を唱え、その王子様に勝負を申し込んで、王子様も、それを受けた。そんな話が知られたら……王都中が祭になるぞ……。いや、あいつらは、今から、それを言い振らす、確実にな。そうなったら、どうなるか、想像出来なかったのか?」

「だ……だから、どうなると言うんだ? 説明しろ?」

 従者の方は……何が起きるか判ったようだけど……王子様の方は……。

「だから……このままでは……王都中の民に、第一王女の婿候補にして隣国の王太子として記憶される事になるのは……ッ‼」

 シ〜ン……。

 ただでさえ、ややこしい事態が更にややこしくなった。

 偽王子様が勝てば、一歩間違うと偽王子と偽王女が結婚して偽の王様と女王様が2つの国の統治者……いや、そんな馬鹿な事が起きる前に別の無茶苦茶な事が起きるに決ってる。逆に偽王子が負ければ……一歩間違えば戦争再開。

 マズい。

 この国の未来は真っ暗だ……。

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