(4)

「だから、そのタルカン・バートルって何なの?」

 謁見の間の次の間に向かいながら、ボクはラートリーにそう訊いた。

「称号だ。意味は『勇士の中の勇士』。草原の民の部族長会議の『クリルタイ』が何か大きな功績をあげた者に授ける。ただし……この称号を誰かが授かるのは、草原の6部族の部族長が全会一致で賛成した場合だけだ」

「じゃあ、今は、誰が、その称号を授かってるの?」

「居ない……4ヶ月前まで、私は草原に居たけど……その時点では、誰も居なかった筈だ」

「じゃあ、誰かが授かったとしたら、その後? 誰か、心当り無い?」

「いや……待て……まさか……」

 ラートリーの顔色が……どんどん真っ青になっていく。

「イルビスっ‼」

 その時、背後から女の子の声……。

 ラートリーが「やれやれ」って感じで顔に手を当てた。

「イルビスって……何?」

「草原の民の言葉で……雪豹の事だ」

 そう言って、ラートリーが指差したのは……自分の胸。

 そこに描かれているのは……。

 ボク達は、声のした方を見る。

「やはり……貴様か……。だが、何故、ここに居る?」

 声の主は……ボクより少し齢下の女の子。

 黒い髪と目。

 首のあたりで三つ編みにした髪で後頭部の左右に2つの輪っかが形作られている。

 齢の割に「可愛い」というより「美人」系の顔立ちだけど……目は冷たく、表情からは何の感情も読み取れない。

 ラートリーと似た服を着てるけど……胸に描かれた紋章は……鷲か……鷹か……もしくは隼。

「聞きたいのは、こっちだ。何でここに居る?」

「『グリフォンガルーダ』の部族の族長の供の1人として王都に来た。だが、私としては、ややこしい話は苦手だし、国王の手を煩わせるのも、どうかと思っている。なので、早速、本題に入らせてもらう。?」

「おい、一体全体、部族長会議クリルタイは誰に『勇士の中の勇士タルカン・バートル』の称号を授けた?」

「……お前、いつも『私が一番嫌いなのは馬鹿だ』と言っていたよな?」

「それが、どうした?」

「そのお前が、馬鹿のフリをしてしらばっくれる気か?」

「あいつか……。あいつが……『勇士の中の勇士タルカン・バートル』の称号を授かったのか?」

「まだ、本人は知らないようだがな」

「ヤツに会ってどうする? 草原の民の英雄になった事を祝うだけか?」

「貴様も、この王都出身とは言え、何年も草原で暮していた。知っている筈だ。草原の民の総意が何かをな」

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