第2話 me*t hope

 朝。テーブルで朝食にありつく水鈴みすずへ、ワンピースで着飾った母が言う。


「じゃあ私、役場行ってくるから。お留守番おねがいね」


 そう水鈴に頼むと母は出かけてしまう。


 水鈴は食事を終えるすぐさま二階に上がり、インナー姿でうろうろしているかと思えば勝手に母の服を取り出して一人ファッションショーを始める。

 盛り上がってきたところで先日言われた「何その身体。奇形じゃん」という言葉が脳裏のうりによぎり、すっかり熱が冷めてしまう。


 気分転換に風呂に入ると、わずかな腐臭ふしゅうがして嫌な気分になる。


 シャワーを浴びる水鈴の姿をバスタブから農定ときさだが見ている。

 しかしその目からは生気せいきが感じられない。

 先日過労死をしたと聞いてもどってきた農定のスキンは無傷であり、それこそ死んでいると言われなければただ疲れて安静にしているだけとすら感じられるほどだ。


 しかしそこにある父とよく似たスキンは紛れもないただの道具にくであって、水鈴はそれを見たところで一抹いちまつの後悔もなつかしさも覚え得なかった。


 風呂から上がった水鈴の目に思わぬものが飛び込んでくる。


 それは先のスキンが着て来た父の服が詰まったゴミ袋のなかにあった。

 工場へ出入りするために必要な身分証明カードである。水鈴はそれを手に取る。


「これを使えばバグに――」


 水鈴は念願のP794へ会いに行くことできるとあってよろこびに打ちふるえる。


「バグ、どうなったんだろ。もうされちゃったのかな?」


 水鈴はそんなことを心配する。


 母に父をつれて帰って来るまで留守番しているよう言われたが、いてもたってもいられなくなり、ついに水鈴は身分証を持って飛び出してしまう。

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