困っている人を見かけたら? ☆6☆
「だから、化け物に殺されたんだって」
「……ぐちゃぐちゃになったままだったのでしょう? 人を喰う悪鬼に殺されたとは、思えません」
「確かにの。あやつらが人を喰うなら、綺麗にぺろりといくじゃろうし。むしろ、
びくり、と女性の肩が揺れる。シュエが目元を細めてリーズに視線を向けると、彼は小さくうなずきじっと彼女を見つめた。
怯えているように見える女性に、さらに問いかける。
「ご主人の遺体は、誰が見つけたのですか?」
「……私です。助けられなかったから、あの人は私を恨んでいるのでしょうか」
「待て待て、なぜそうなる? 夫が霊体で
思わずというように、シュエが口を挟む。女性は左頬に手を添えて首を傾げた。本気でそう思っているであろう状況に、シュエは重々しくため息を吐く。
「違うのですか?」
「もっと簡単に考えられるじゃろ! 村人が祭りに乗じて芻狗を置くという考えが!」
「ああ、それもそうですね」
納得したようにうなずく女性に、シュエはリーズと視線を交えた。
「もう遅い時間になるので、話の続きは明日でも良いでしょうか。お腹いっぱいになったら、なんだか眠くなってきました」
「まぁ、構わんが。……わらわたちはどうすればいいかのぅ?」
「村長に聞いてみるよ。村長の家なら広いし、ふたりを泊めることが出来ると思う」
「いや、そなたは母上についておやりよ。わらわとリーズは大丈夫じゃから。のぅ、リーズ?」
「ええ、断られても勝手にどうにかしますので、安心してください」
男性の言葉を聞き、リーズはにこりと微笑んだ。その笑みに彼はなにも言えなくなり、「村長の家はここから北のほうだよ」と方角を教えて、シュエとリーズが家から出て行くのを見送った。
すっかり暗くなった空を眺め、シュエはすぅぅと大きく息を吸い込む。
「空気が美味しい場所じゃのー」
「山の中の空気も美味しかったでしょう?」
「まぁの。さて、リーズ。どう見ておる?」
「姫さまのほうが確信に近付いているのでは?」
質問を質問で返されて、シュエは唇を尖らせる。てくてくと村長の家まで歩いていく。村で一番大きな家だからすぐにわかった。
「まぁ、なんにせよ……愛憎とは怖いものよな」
「あ、
「わらわとて竜人族の王族じゃ。そのくらい
男性と母親のふたりきりの家なのに、なぜか気配を感じた。人も悪鬼になれるのかもしれんな、とシュエが苦虫を噛み潰したように眉根を寄せる。
「まぁ、命が短いからこそ燃え上がるような恋をするのかのぅ?」
「そこは寿命関係ないのでは? 竜人族でも燃え上がるような恋をする人もいますよ」
「いたのかっ、そんな
シュエは目を大きく見開いて驚いた。竜人族の寿命は長い。無限とも言えるほどに長い時間を生きる種族のため、恋愛に関してはゆっくりと愛を育み合う人たちが多かった。
実際にシュエが見た恋人たちはそんな感じだったので、燃え上がるような恋をしている人たちを見たことがなかった。
「く、これが百年の差か……!」
「意外と使用人たちで盛り上がっていたりしますよ」
「なんと!? 帰ったら料理だけではなく人々の様子も注意深く見てみるか」
リーズとシュエの歳の差はちょうど百歳。その分、リーズは王宮の恋愛事情を見てきたということだ。いや、王宮だけではなく、別の場所でも見て来ていたのかもしれないと考え、思わずリーズを見上げる。
シュエの視線に気付いて、「どうしました?」と優しく問われ、緩やかに首を横に振る。自分が生まれてから百年、ほぼリーズと一緒に暮らしてきた。そんな彼に、自分の知らないところがあると思うと、なぜか心の中がモヤモヤして、シュエは胸元に手を置いて首を傾げた。
「どうしました?」
「いや、なんでもない。あ、あの家じゃろうか?」
歩いているうちにどんどんと近くなる大きな家を指して、シュエはリーズの視線を家へと移した。彼は彼女の指先を追うように視線を動かし、「そのようですね」と言葉をこぼした。
大きな家の玄関前までつき、リーズが扉をノックして「ごめんください」と扉の外から声を掛ける。すると、扉が開き中から若い女性が出てきた。
リーズのことを見て、きゃあきゃあとはしゃいでいた若い女性のひとりだった。彼女はリーズとシュエを見て目を丸くする。
「えっと、今日村に来た人たち……?」
「はい。夜分遅くすみません。今日の宿を探していまして」
「ああ、なるほど。少々お待ちください」
くるりと
「泊まる場所を探しているって?」
「はい」
老人が問いかけ、リーズが答える。老人は小さくうなずき、シュエたちを家に入れてくれた。
「ふたりとも、ご飯は食べたかい?」
「うむ! あとは寝るだけじゃ」
「お風呂はどうする?」
「使って良いのか?」
もちろん、と首を縦に動かす老人に、シュエはぱぁっと表情を明るくさせた。まずは客室にシュエとリーズを案内し、次にシュエを風呂場へと若い女性が案内した。
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