困っている人を見かけたら? ☆2☆
「それと、私も反省しなければなりませんね」
「リーズが反省? なぜじゃ?」
「姫さまの勉学の時間まで、調整しませんでしたから。すっかり陛下たちが手配しているものだと思い、口を出しませんでしたから」
シュエがリーズの漆黒の瞳から逃げるように俯く。
その頭の上にポンと片手を乗せて、くしゃりと撫でてから「行きましょう」と歩き出した。引っ張られるようにシュエの足も動く。
鬱蒼とした森林をてくてく歩く。会話はない。ただ、黙って歩いていると、ふとシュエが顔を上げて「あ」と短い声をこぼす。
「のぅ、リーズよ。……あの怪鳥、わらわたちが行く方向に飛んでいないか?」
「え?」
すっと怪鳥を指さすシュエ。指先を追って視線を動かすと――
「あ、あ~……。
「わらわではなく、お
どこからどう見ても怪鳥だった。一見鶴のように見えるが、足は一本しかなく、青い地肌に赤い斑点という特徴がしっかりと目視でき、さらに白いくちばしが確認できた。どこからどう見ても火災を招く怪鳥であった。
「……あれ、家々を焼き払うヤツじゃよな……」
「丁度進行方向に村だか町がありますねぇ……」
シュエとリーズは顔を見合わせる。そして、シュエの目がきらりと光った。その翠色の瞳が燃え上がるように輝くのを見て、リーズは呆れたように、そして仕方ないなぁとばかりに息を吐く。
「どうやら、目的はわらわたちと同じところのようじゃの?」
「そのようですね」
「ならば、先に倒さねば被害が出るということじゃな?」
「……そのようですね」
シュエはにっと白い歯を見せる。リーズはそれだけで、彼女がなにをしたいかを理解した。してしまった。
「まったく、無茶するんですから」
「今夜の宿は! 絶対に欲しいのじゃ!」
パタパタと手を大きく動かし、倒したいとアピールするシュエ。三日も野宿が続いたのだ、そろそろ布団でゆっくりと眠りたい。そう主張するシュエに対し、ちらりと畢方に視線を向けると、重々しく息を吐いた。
「一撃で仕留められますか?」
「うむ! まだ『ヒッポウ』と鳴いていないから、不意打ちすればいけるじゃろ」
恐らくまだどの家を燃やすのか悩んでいるのだろう。畢方がその名の通りの鳴き声を出すと、妖火が村里を襲う。そういう不吉な怪鳥なのだ。
「では、一気にいきますよ」
「よし、わらわを飛ばしてくれ!」
「かしこまりました」
シュエは以前と同じように愛刀を取り出す。まだ生まれて間もない頃、父である陛下が『災いを斬れるように』と国宝を彼女のものにした。国の名でもある翠竜を剣にも授け、身体を動かすことを苦にしないシュエは、国で愛刀の使い方を学んだ。
その
「さぁて、頼むぞ、リーズ」
「ええ、一気に片付けてくださいね」
リーズはシュエを飛ばした。シュエの足裏を支えるように手のひらに乗せ、狙いを定めて飛ばしたのだ。勢いよく空へ近付く。畢方が近付いてくるシュエにぎょっとしたように目を丸くしたのが見え、彼女はぐっと愛刀を握りしめ、その首を斬り落とした。
畢方の首が斬り落とされ、
そして、落下地点を確認し、ふと森のほうに視線を向けると、なにかを探しているように動く人の姿が視界に入った。
「ふむ?」
どさっとリーズの腕の中にシュエが落ちる。危なげもなく彼女を抱き留め、彼を見上げてからすっと森林に人差し指を向ける。
「リーズ、森の中に人がいた」
「そろそろ日が暮れそうですのに?」
「うむ。なにかを探しているようじゃったから、ちぃと気になっての」
愛刀をしまい、ぴょんとリーズの腕から飛び降り、歩き出した。
「助けるのですか?」
「うーむ、必要と思ったら、かの?」
スタスタと早歩きで森の中にいた人の場所へ向かう。リーズはそれ以上なにも言わずにシュエの後ろに続いた。
しばらく無言でいたが、人影が見えたところでシュエが声を掛ける。
「そこの人や、なにを探しておるんじゃ?」
「えっ?」
声を掛けられるとは思わなかったのか、細身の男性がびくっと肩を跳ねさせ、声のしたほうへ顔を向ける。
恐る恐る、というように、ゆっくりと。
そして視界に入るリーズに首を傾げ、さらに視線を落してシュエの姿を見て目を丸くした。どうしてこの山に子どもが? と言わんばかりに驚愕の表情を浮かべる男性に、シュエが唇を尖らせる。
「わらわの質問が聞こえなかったか?」
「え、あ、いや。お嬢ちゃんたちこそ、どうしてこんな場所に? 」
「質問を質問で返すな、と言われたことはないか? わらわは『なにを探しておる?』と聞いたはずじゃ」
腕を組んで呆れたように息を吐くシュエ。まだ十歳くらいに見える少女に苦言を呈され、男性はバツが悪そうに視線を泳がせた。
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