第31話 ヘッドハンティング

 この会社は新入社員に対して一年の間を置いて二回アンケートを取る。

 これからやりたいこととか、職場に対しての不満などを書かせるのだ。

 もちろんその内容が意味を持つことは無い。人事課が働いているぞ感を出すためのただのフリだ。その証拠に三年目からは行わない。


 山ほど不満を書いたらほどなくして、外線から呼び出し電話がかかってきた。

 本来はこれはあり得ない。会社内の配属と内線番号は一応社外秘となっているからだ。


 出てみると転職サービスの会社だ。

 訊いてみた。

「どこから私のことを聞いたのですか?」

「それはちょっと」

 しばらく転職の予定はないと断った。


 長い間、これは不満がある社員を自発的に辞めさせるために会社がやっていたのだと考えていた。

 最近になって別なのだと気付いた。当時は人材獲得合戦が激しく、ケチな会社が新人の給料を自発的に月二千円も上げたぐらいだ。会社に不満があるぐらいで辞めさせることは無い。

 きっと人事部の誰かが不満を持っていそうな社員の名前を小遣い稼ぎで転職サービスの会社に売っていたのだ。

 人間一人を移籍させると百万円単位の金が動くから、有望そうな新人の情報はそれなりの金になる。


 大企業になるほどそれに食いつく役得狙いの輩が増えるのである。

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