第23話 謎の先輩

 会社に数週間出てこなかったかと思えば、二三日出現し、また数週間出てこないというサイクルを繰り返す、不思議な先輩がいた。

 何を考えているのか分からない人だった。


 伊豆みかん狩りの参加を聞くと参加すると二つ返事で答える。ところが当日になると当然のように来ない。後日そのことを訊くと、返事すらせずに姿を隠す。

 まるでぬらりひょんである。


 彼の欠勤はもちろんすべて無断欠勤である。有給は使い切っているので当然ながらここまで怠業すると給料はゼロである。

 どうやって生活しているのか同僚の誰もが不思議に思っていた。

 たまにこの人が現れると実験室から消える機材を売るだけでは生活はできないのは間違いない。

 課長が米国出張で買って来た一台200万円の高級MACは流石に盗まれていないのでこの方面で生きているのではない。


 ある日、その謎が解けた。

 近地出張に出ていた先輩の一人が駅のホームでこの人を見つけたのだ。

 見たことのない背広をピシリと着こなして駅のホームで時間待ちをしているところに出くわしたのだ。

 先輩が声をかけると、向こうを向いて立ち去ってしまった。


 一年ほどして首になったが、彼は他の会社のスパイだったのか。

 最後まで謎は解けなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る