第21話 金の卵
画像制御プログラムのコードをコンパイルする。当時のパソコンの性能ではコンパイル一回に5分はかかる。
(コンパイル:プログラムを実行可能な機械語に翻訳する作業。もちろんこれもプログラムが行う)
この時間を無駄にはすまいとH先輩が別のパソコンを起動し、ゲームを始めた。
先輩はサボリーマンではない。あくまでもコンパイルの間のちょっとした息抜きである。
この先輩が使っているのがM○○パソコンである。
いったいどんなパソコンを作るべきか迷っていた各社は、パソコン雑誌の出版社が提案したパソコン規格に一斉に飛びついた。
つまりはどの社のパソコン事業部の事業部長もわが社の事業部長と同じくパソコン音痴だったというオチだ。他人の企画に乗っかるのは恥ではあるが楽でもある。
こうしてM○○規格パソコンの第一弾が発売された後で、このパソコン出版社は新たなる戦略を打ち出した。
M○○規格パソコンを名乗るためにはこの出版社が開発したM○○チップを搭載しなくてはならないと決めたのだ。
だがこのM○○チップが恐ろしく高額で、これを搭載するとパソコン一台の純益がほぼすべてこのチップに持って行かれることになった。
こんな馬鹿らしいことはない。苦労して製造し、苦労して売り、苦労してお金を手に入れた挙句、全部持っていかれるのだ。
こうして各社は一斉にこの規格から手を引き、独自路線に戻った。
人間というものは金のタマゴを産むニワトリを何としても絞殺さなくては気が済まないものらしい。
先輩が遊んでいるのはアーケードゲームの宇宙シューティングゲームをパソコンで動けるようにしたものである。
このゲームソフトは完成間近にプログラマーが病に倒れるという不運に見舞われたものである。このままでは会社が潰れてしまうと考えたそのソフト会社の社長は、病室にパソコンを持ち込み、倒れたプログラマーに点滴を投与させながら鞭打って完成させたという曰くつきの代物である。
ところが当時のM○○規格パソコンでは能力不足で動作が非常に遅く、結局このゲームはヒットせずに終わった。最終的にゲーム会社は倒産したという悲惨な結末がついている。
時代は少しだけ進み、M○○規格パソコンの機能が上がってみると、このゲームは大変に面白いのが分かった。
そしてこの実験室の片隅で元気に先輩の相手をしてくれるようになったのである。
「H先輩。コンパイル終わりましたけど」
先輩はちらりとこちらを見てニヤリと笑うと言った。
「もう一度最初からコンパイルして」
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