第8話 鳥になる
従業員四万人。一年間の新入社員四千人。数字だけを見れば堂々の一流企業だが、裏を返せば年間四千人が辞めているブラックな企業でもあった。
他の会社の社長夫人に聞いたことがある。この会社の自殺率は他社に比べて三倍なのだと。
休日の深夜まで本社ビルの明かりは消えない。その明かりすべてが徹夜作業を意味している。
こんな環境では人は間違いなく鬱病になる。
本社ビルの敷地の中には旧半導体工場も含めていくつものビルが建っている。半導体工場は周囲に道路などの振動源があると歩留まりが極端に悪くなるので、今ではもっと静かな場所に移転している。
その中の一つは地獄の四番館と呼ばれていた。古びたコンクリ作りの建物である。
この四階建ての社屋からは一か月に一人の割合で飛び降り自殺が出る。
あるとき飛び降りた男の最後の言葉は次のようなものである。
『俺は社長だ~!』
飛び降りが出ると総務の人間が青いビニールシートをズルズルと引いてきて死体にかける。そうして警察が来るのを待つのだ。検死が終わったらまたその青いシートを引きずって倉庫に入れ、来月の飛び降りに備える。
それが総務課の日常である。
水心あれば魚心あり。会社の警備員には警察の下っ端のOBが雇われているので、検死などは実にスムーズである。
印象的だったのは本社ビルが見える小さなお寺の境内で割腹自殺をした社員だ。
見つかった死体はきちんと本社ビルに向いて正座をしていたらしい。彼が何を考えて死んでいったのかは謎である。
遺書が残っていたのかどうかすら定かではない。
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