第7話 電話
電話が鳴っている。
実験室の一部にパーティションが切ってあり、そこに課員3人の課が入っている。
その部屋の中で電話が鳴っているのである。もう四時間ほど。
皆が休日出勤して働いている中で、パーティションの向こうで電話が鳴り続いているのだ。最初はすぐに切れると思ったが、いつまで経ってもベルは鳴り止まない。
四時間経過したときにはこの余りの執拗さに一体何が起きているのかと皆が騒ぎ始めた。
そこを通りかかった他所の課の課長がいったい何を騒いでいるのかと尋ね、事態を知った。
その課長は机の上に乗るとパーティションを上から乗り越えて電話を取った。
「もしもし、〇〇課ですか?」
すぐに向こうが言ってくる。ということは四時間の間ずっと受話器を耳につけたまま電話をかけていたことになる。
「そうだ。だがその前に所属と名前を言いたまえ」
「△△課の××と言います」
「よし、いいか。良く聞け」そこで課長は息を大きく吸い込んで怒鳴った。
「ばかやろう!」
「馬鹿とは何ですか」
「馬鹿を馬鹿と言って何が悪い。いいか、ここの課は今日は休みだ。誰もおらん」
「現に電話に出ているじゃないですか」
「誰もおらんのだ。俺はパーティションを越えて侵入したんだ。四時間も電話をかけ続けるとは貴様、仕事を何だと心得る!」
しばらくお説教が続いた。それが終わると課長はまたパーティションの上を越えて出て来た。
都合四時間、電話をかけてベルが鳴るのを聞くだけの仕事。
世の中には奇妙な仕事があったものだ。
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