第6話 サボリーマンたち2
眠りは辛い現実に対する切り札である。その無防備な姿は起こすのをためらわす効果がある。だが会社という場では他人に殺意を抱かせるものでしかない。
うちの課の実験室に見慣れない男がいた。うちの課は課員のほとんどが各地の工場に出張していたので、この頃の実験室はガラガラであった。
その実験室にずらりと並ぶパソコンの一台の前に見知らぬ男が座っている。電源すら入っていないパソコンの前に朝早くから座り、昼飯時を除いて夕刻定時までひたすらそこで眠っているのだ。
こんなことをやられるとうちの課がさぼっているとの噂が流れるので困る。
男が眠っている間に目の前のモニタに紙を貼っておいた。そこにこう書いておいた。
『眠りは深く静かに幸せで』
目を覚ました後に、男は紙を破り捨てると、また堂々と眠りを再開した。どうやら心臓に毛が生える病気らしい。
さすがにこれが二週間続くと噂になり、男は実験室から消えた。
彼は今もまた別のところで居眠りを続けているのだろう。
もっと堂々としたのもいる。
こちらは別の部の新入社員の女性で一日中、自分の机で文庫本を読んでいた。
さすがにこれも噂になり、それを聞いたそこの部長が、どうしてそんな奴を放置しているんだ、よし俺が怒鳴りつけてやろうと乗り出した。
だが相手の名前を聞いてすごすごと引き返す。この女性の新人は重役の娘だったのである。
結局この部長はご自分の面子を潰すだけの結果に終わった。もちろん悪いのはこういう娘を躾けた重役である。
意図せぬ眠り男もいる。
ある日真っ先に出社すると徹夜していた同僚がパソコンの前で居眠りをしていた。
パソコン上ではCADが動作したままだ。
こちらが仕事の準備をする三十分の間中ずっと彼は眠り続けていたが、やがて大勢の課員が出勤する気配で目覚めると、がばりと起きて仕事をしている振りをした。そして大きく伸びをすると一言漏らした。
「この仕事割に合わんな」
へえ? いやいや、十分に割に合っていると思いますけど?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます