第3話 最強の課長
最初に配属された課はいくつかの会社の混成部隊であった。
隣の課はこの社の子会社の出張所のようなものである。ここの課長が今までの人生で見た中で最高の管理職であるN課長だ。
この人は実はこの会社のパソコンの生みの親である。
パソコン黎明期にウチの会社もパソコンを作りましょうと提唱し、失敗したらお前がすべて責任を取るのだぞと念を押されて立ち上げたパソコンは、素晴らしいものだった。
当時パソコンの高解像度での発色は小さいエリアに64色がせいぜいだったのだが、このパソコンは大きい画面に256色を可能としていた。使い易く、速く、しかも安い。ホビー用パソコンとしては実に秀逸な製品であった。
お笑い芸人をコマーシャルに起用したのもこの人だ。その当時のこの会社の頭の固さではまずあり得ないことなので相当衝突したのではと思う。
これが製品の大ヒットにも一役を買ったのは間違いない。同時に11PMという深夜番組の最後で細々とコントをやっていたこの芸人もこのコマーシャル出演を機に大きく成功の道を歩み始めた。
だがその製品の大成功にも関わらず、この人の手腕が認められることはなかった。その理由はただ一つ。学歴が高専卒であったためである。
学閥人閥を持たぬ者は人に非ずとの立場を取るこの会社の中ではどのような手柄も認められることはない。
その代わりに周囲のあらゆる部署から人が送りこまれ、課長がずらりと並んでふんぞり返るようになった。
やる気のある部署からはそれなりの腕を持った課長が送り込まれた。やる気のない部署からは自分の所で持て余していた問題のある課長が送り込まれた。
まさに混迷の極みである。これによりこの社のパソコンは方針を失い、その後は迷走を続けることになった。
N課長は進捗会議というものを滅多にしない。
一日二回、十五分ほど実験室などを巡回し、部下と世間話をするだけである。ただそれだけで課内の状況はすべて把握していたので、進捗会議などという無駄の極みは行わないのである。問題点はその巡回中にすべて解決されていた。
部下にも無茶な要求はしない。上から降りてくる無茶な要求は頑として受け付けない人であった。
その結果、N課長は最後は子会社へと飛ばされる。部下をかばい過ぎたためである。部長クラスが課長たちをまともに見ていないのが良くわかる事例である。 有能な部下よりも媚を売る部下を愛する。間抜けな上級管理職の典型である。
ただN課長は出先の会社ではその能力も相まって重宝されたのだけは救いである。
さて、これほど部下を大事にする課長に対する部下の評価はどのようなものであったか。
次のような言葉を聞いたことがある。
「N課長はちょっとね~。あまりにも良い人すぎて仕事をさぼれないから嫌だ」
親の心子知らずとはよくぞ言った。
きっと一度も悪い人間の下についたことがない上での物知らずな言葉である。
ロクデナシばかりに囲まれてきた私の立場からは心の底からそう感じる。
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