第25話 クリスマス
寮へ帰ると、四人がすでに部屋の飾りつけをして待っていた。必要最低限の家具しかなかった質素なリビングが、カラフルな折り紙で彩られていく。なんだか幼稚園の教室みたいだ。いや、デイサービスかな。
「ケーキ楽しみなのです!」
「チキンも……」
キャッキャウフフと騒ぎながら、楽しい時間が流れていく。クラッカーを鳴らして、チキンを食べて、シャンメリーを開けて。今までにない、この寮で過ごした中で一番和やか時間。誰もが望む、楽しい楽しいクリスマス。でも、楽しい時間というのはあっという間で、すでに今日という一日の三分の二以上が経過してしまっていた。
「よーしみんな。そこに座るんだ」
「なんなのよ?」
「なんなのです?」
四人が首をかしげながら、カーペットの前に座る。こうしてみると俺と四人、すごい身長差だ。幼稚園児と接しているよう。
「別に正座じゃなくてもいいんだぞ」
律儀にみんな膝を曲げ、その上にちょこんと手を乗せている。四人とも同じポーズで座っているから、この状況がちょっとシュールだ。俺が突っ込みを入れると、四人はそれぞれ足を崩し始めた。よし、それでいい。
「これ、俺からのクリスマスプレゼントだ」
俺は一人一人にリボンの付いた小さな白い袋を渡す。さっきスーパーへ行った帰りに買ってきたもの。四人はその袋に目を輝かせる。
「開けてもいい?」
「ああ、いいぞ」
ビリビリとリボンに付いたシールをはがす音が響く。サプライズというのはな、この瞬間が一番興奮するんだ。俺はキラキラと輝く表情の四人を前に、心を弾ませた。
「わあ、これ」
「ミサンガ……」
みんなそれぞれ自分の袋の中身を取り出す。苺花はピンク色の、愛梨は赤色の、柚葉は黄色の、桃音は水色の。みんなが似合いそうな色を考えたんだ。本当はこういうの、女子に選んでもらうのが一番いいんだろうけど。
「嬉しいのです! 一生大切にするのです!」
「あたしも!」
さっそく愛梨が手にはめる。気に入ってくれたなら良かった。なんせ、女子へのプレゼントを選ぶの、人生で初めてだったんだからな。小学生にだけど。
「大事にしてくれよな」
「もちろんなのです!」
愛梨の言葉に三人が頷く。ふう、これでクリスマスにやる全てのイベントが終わった。明日からは待ちに待った冬休みだ。そういえば、五人で過ごす最後の長期休みになるな。
「それじゃ、風呂入って寝るか!」
「あ、まって」
何かを思い出したように柚葉が声を上げる。すると、ミサンガをテーブルの上に置き、なにやらランドセルの中をゴソゴソと漁り出した。
「じゃーん。テスト、満点だったの!」
「ま、まじか! 柚葉、みかけによらず優等生だったんだな!」
「見かけによらずは余計よ!」
ぷくっと柚葉の頬が膨らんだ。そういえば、苺花もテストがあるって言ってたよな。この時期は学期末テストがあるんだっけ。
「愛梨も、九十七点だったのです!」
「七十……五点……」
愛梨も桃音も、ランドセルからテスト用紙を取り出した。赤ペンで付けられたたくさんの丸。みんなこんなに点数がいいのは、俺が毎日宿題を教えてあげてるからかな。なーんちゃって。
「苺花ちゃんはどうだったです?」
みんなが苺花の方を見る。しかし、なんだか浮かない表情だ。居心地悪がそう。そんなに点数が悪かったのか? いつも宿題は完璧なのに。
「私は……」
嫌なものでも見せるかのように、苺花もランドセルの中を漁り出した。中から出て来たのは、くしゃくしゃになった一枚の紙。
「これ……」
みんなが苺花のテスト用紙をのぞき込む。一面に埋まっているチェックの数。名前の横に書かれた一桁の数字。
「三点!?」
「です!?」
赤羽苺花。そう書かれたテストの解答用紙。柚葉と愛梨はそれを見て、信じられないというような表情で声を上げる。桃音も大きく表情には出さないが、驚いているようだった。三点とは……。高校でもなかなかこんな点数見ないぞ。
「ある意味……天才……」
「苺花、こんなに頭悪かったっけ?」
苺花が俯く。だんだんと表情が曇っていくのが分かった。
「私、今までみんなにテストの点数見せたことなかった」
そう言われてみれば、そうだ。毎日のように宿題を教えてはいるが、実際に成績表やテストの結果を見せてもらったことがない。いつも勉強を教えるだけで満足してしまっていた。だって、こんなに悲惨な点数を取っているだなんて思わなかったのだから。
「待ってて」
そう一言言うと、苺花がリビングを出て行った。遠くの方から階段を上る音が聞こえる。少しすると、苺花は大量のプリントを手に持って、俺たちの元に戻って来た。
「これ、今までのテスト」
バサバサとカーペットの上に点数の書かれた解答用紙が広げられていく。そこに書かれた数字はすべて一桁。一桁。一桁。一番高い数字で八点。それも合っているのはわずかな選択問題のみ。
「こ、れ、は……」
わざとやったとしか思えない点数。あれだけ宿題は教えればすぐ解けてしまうのに、なぜなのか。例え本番に弱いタイプだったとしても、これはひどい。
「ある意味すごいわね」
呆れと驚きが混ざった声で、柚葉が呟いた。みんな見たこともない点数に、驚きを隠せないでいるようだ。
「でも、苺花ちゃん。いつもテスト勉強ちゃんとしてるよね?」
「夜な夜な……計算式を解く声が……聞こえる……」
「あたしも聞いたことあるわ」
再びみんなの視線が苺花に集まった。吐くまでそらさない。三人の目がそう言っている。
「実は……。先生が嫌いなの」
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