第40話 カイの目的

「おっと、そう警戒しないでくれるか――とりあえずは話をしたいだけだ」


 拳銃に手を伸ばそうとした俺に対して、カイと名乗った男は制止する。


「そもそも、君をどうこうするつもりなら既にELF同士の戦いをさせているし、私達三人で待ち構えるはずがないだろう」


 俺を信用させるためか、カイは両掌をこちらに見せつけて、降参の姿勢を取ってみせる。


「それで、君はなぜ来たのだ?」


 問われて、俺は考える。


 ここに来たのは、直接的にはアルバート達の安否を確認し、必要であれば元老院たちの目的を挫く為に「ノア」を掌握するのが目的だった。


 だからこそ、状況把握と掌握を同時にできるブリッジへと向かった訳だが、目の前にいる老人は恐らくそれを理解した上で俺に問いかけているのだろう。


「……この星で生きるためにだ」


 ならば、俺がしようとしていることを答えることにした。


 人類はこの星(エルシル)に歓迎されていない。


 だとしても、俺たちはこの星で暮らしていく。本星に戻ったところでそこにあるのが希望だとは限らない。俺達の記録に残る本星は、帰還するまで同じものとは限らないのだから。


「ほう、そうか」


 カイは満足したように頷くと、側に控えるELFに少し目配せをしてから言葉を続ける。


「ならば、この星で生きていけるだけの力を証明してみせろ。冷凍睡眠装置前――君の因縁が始まった場所で、決着をつける事だ」


 エルフが短く言葉を紡ぐと、カイを含めた三人は光に包まれ消滅した。


「え、ど、どこ行った!?」

――周囲に生体反応はありません。どう見ても、彼らは消滅したとしか……

「ZETによる転移です」


 突然の事態に驚く俺たちだったが、ジャンヌは冷静に状況を分析し、それを伝えてくれた。


「ZETにより任意の場所と場所を繋ぎ、の物質転送技術を応用・発展させた技術です。しかし、それができるという事は……」


 ジャンヌは俺の側を離れて、電源の切れたブリッジの端末の一つに手をかざす。するとその端末だけが点灯し、情報と数列をホログラムで表示する。


「――そうですね。あのELF、ジルドレはメインジェネレータからのエネルギー供給を受けています」


 という事は、俺の仕掛けは完全に空振りに終わってしまったという事か、悔しくはあるが、どうやら俺が思うよりも、状況は悪くないらしい。


「それで……バイルさん。どうします?」

「ん?」


「いえ、その……『ノア』からエネルギーを抽出し、テラフォーミングユニットに供給することもできますが」

「いや、それはやめておこう」


 折角の提案だが、俺はジャンヌを引き留めた。


 今は管理者権限を持つELFが多すぎる。俺のやりたいようにエネルギーを供給したところで、他のELFがそれを元に戻してしまうだろう。


 ここは癪だが、カイの言うとおりにするしかなさそうだ。


「さて、じゃあ向かうか」

――どこにですか?

「冷凍睡眠ユニット。あの爺さんが行けって言ってたところにだよ」



――



「くはは、なかなか面白い若造ではないか」


 カイの転移先は、冷凍睡眠ユニットではなく、元老院の会議室だった。転移先は事故を防ぐため、ある程度の広さがある場所を繋ぐ必要があり、そのためにはこの会議室とブリッジがベストの広さだった。


「まさかあの若造がここまでやるとはな。自分を担保にしてアルバート君を議員にした時も思ったが、やはり次の世代を作っていく人間は、あのくらいエネルギッシュで無ければ」


 車椅子が駆動音を立てて、会議室から出て行く。秘書である大男とELFもそれに付き従うと、三人はある場所へと向かった。


「お前も気に入ったようだしな、奴は強かったか? ジョー」

「もちろんだ、じい――もちろんです。先生」


 ジョーと呼ばれた大男は、一瞬だけ喜色をにじませた声を上げたが、慌てて言い直した。


「くくっ、そうかそうか……しかし、死の直前に転送が間に合ってよかったな」

「はい……」


 DAZEでの決着がつく直前、溶断型の金属カッターという予想外の武装に死にかけたジョーであったが、彼はコックピットを切断される直前に、ジルドレによって転移させられていた。


「マスター、到着しました」


 ジルドレが長い髪を揺らしてカイの前まで歩くと、その場に立ち止まる。彼が示しているのは、一つのドアだった。そのドアには赤いランプが灯っており、ロックされていることを示している。


 カイは片手をあげてジルドレをねぎらうと、そのドアの前でパスコードを遠隔で打ち込み、ドアのロックを解除し、内部へと入っていく。


「ご機嫌はいかがかな?」


 そういいながら、車椅子から立ち上がる。彼が車椅子に座っているからと言って、立ち上がれないわけではなかった。


「……」


 意外にしっかりと立ち上がったカイの視線の先では、アルバートとウィリアム、二人の男が手錠をはめられた状態でじっとしていた。


「そう警戒せずともよかろう。そもそも私たちは目的は同じはずだ」

「どこが……っ!」


 ウィリアムが怒声をあげようとして、なんとか口をつぐむ。アルバートの方も穏やかとは言えない表情だった。カイはそれを見て口角を吊り上げた。


「人類はこの星に歓迎されていない」


 カイの言葉は、そんな二人に勝ち誇ったように言葉を続ける。


「この星で生きていくつもりなら力が必要だ。偽物の郷愁など蹴散らしてもらわねば困るのだよ」

「偽物の郷愁……?」


 カイの言葉に、アルバートは眉を顰める。しかし、その答えが彼からもたらされることはなかった。


「さて、君達とゆっくり話をしたいところだが、もうすぐ我々の命運を決める一大イベントがあるのだ。失礼させてもらおう」


 カイはそれだけ言うと、二人の従者を連れて部屋を去っていった。




――読者の方へおねがい


 お読みいただきありがとうございました。この作品はカクヨムコンに参加しています。カクヨムコンは異世界ファンタジーや現代ファンタジー、異世界恋愛が強い状況で、その中で戦っていくためには皆様の助力が必要不可欠です。


 もしよろしければ、作品ページから+☆☆☆の部分の+を押して★★★にしていただけるとありがたいです。


 では、よろしくお願いします。

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