第39話 ブリッジ
ジャンヌのガイドとケイの感知をもってすれば、ブリッジまでの道は意外なほどすんなりと進めた。正直なところ、何度か警備員を相手に戦闘を挟まなくてはならないと考えていたので、拍子抜けというのが正直なところだ。
「バイルさん。到着しました」
「あ、ああ、ありがとう」
警備の目をすり抜け、監視カメラを偽装して、その先で俺は今、円筒形のエレベーター前にいる。
この先にあるブリッジには間違いなく人がいるはずで、それらを対処する作戦を立てておかねばならない。
「ジャンヌ、ブリッジにカメラは――」
「ありませんね、あそこは中枢施設です。そこにカメラがあるのは、監視をする人を監視するような物でしょう」
つまり、意味がないという事か、なんとか状況を把握できるといいんだが……
――バイル。私ならブリッジの人員配置を把握できます。とはいえ、もう少し近づく必要がありますが……
ケイの生命感知も、これだけ建材が入り組んだ構造だと、あまり長い距離を検知できないらしい。なら、もうある程度ぶっつけ本番で行くしかないだろう。中央街――しかもノアまで乗り込んだのも半ば勢いのような物だ。このまま勢いに任せてしまっても構わないだろう。
「仕方ない、ぶっつけで行くか――ケイ、感知できる距離になったらすぐに言えよ」
――分かりました。
俺とジャンヌはエレベーターに乗り込む。彼女が手をかざすと扉が閉まり、自動的に上昇を始める。
「基本的に管理者権限を持つ存在が居ないとブリッジには上がれないようになっています。なので誰もいないと思うのですが……」
「いや、管理者権限ならELFを従えている元老院議員たちが沢山いる。警備部隊が詰めているとも思えないが、間違いなく誰かはいるだろう」
俺が想定を話すと、それに続いてケイが声を上げた。
――ブリッジに生命反応、三つです!
三つ……ということは元老院議員とELFの二人は確定として、あと誰か……恐らくは護衛か、どうやら、俺がここに来るのを知っているような、そんな感覚があった。三人なら、何とか不意を突ければなんとかなるか……?
エレベーターは徐々に速度を緩め、ようやく最上層――ブリッジが見え始める。
「さて、何がいるか……」
俺はジャンヌを後ろに隠して、ハンドガンの位置と振動式金属カッターの位置を確かめる。来る前に食べられるだけ食べたので、ケイの活動限界はまだまだ余裕があるはずだった。
遂にエレベーターが停止し、ドアが開かれる。視線の先には薄暗いブリッジと、電源の切れた巨大なスクリーンがあった。
「暗いですね、照明をつけましょうか?」
「いや、相手もELFを持っている。だとすれば、この暗さは――」
そこまで言った時、ブリッジの天井にある照明がいくつか点灯し、三人の男を照らし出す。
「ふん、お前がジョーの認めた男か」
一人はひげを蓄えた老人で、車椅子に腰掛けていた。恐らく元老院議員だろう。耄碌していてもおかしくない外見だったが、彼の目には理性がしっかりと宿っていた。
「マスター。彼が連れているELFがNO.025です」
もう一人は金髪翠眼の男で、整った目鼻立ちにまっすぐな長髪を持っている。間違いなくELFだろう。
「……」
そして、無言で立ち尽くす大柄な男が一人、恐らく彼は元老院議員の秘書という役割のはずだ。
――バイル。どうしましょう。
「今動くのは状況が分からないから危険だ。だが、すぐに動けるようにはしておけ」
小声でケイに指示を送り、俺は服の下にある拳銃を意識した。
「どうした? 見ての通り我々は武装していない。その上少し話そうではないか」
俺がエレベーター内から動かないでいると、老人がかすかに笑ったような気がした。
「っ……」
俺は足を一歩踏み出して、ブリッジ内部へと進んでいく。正直なところ「ノア」の管制を奪えるELFがいる時点で、彼等が武装していないというのは、何の気休めにもなっていなかった。
何故なら、ELFはサブジェネレータのみでプロトアビスを殺しきるほどの電圧を発生させることができ、あらゆる装置を遠隔で操作できるのだ。手に持っていないだけで何を安心しろと言うのか。こちらにもジャンヌが居るとはいえ、とても安心はできなかった。
だから、この行動は俺が自発的に行った物ではなく、相手にそうさせられているという訳だ。
「……」
「黙っていては分からん。ここに来た理由を話してみろ」
ジャンヌを庇うように位置取りをしつつ、周囲を警戒していると、老人はそんな事を言った。
一体彼は何がしたいのか、圧倒的優位に立っているというのに、俺に話をさせようとする。それは罠にかかったネズミをつついて遊ぶような感覚なのかもしれない。
「あの、先生……」
大柄な男が老人に何かを耳打ちする。
「なんだ――おお、確かに。自己紹介は必要だったな」
老人は初めて気が付いたようにハッとして、大きく咳払いをした。
「私はカイ・キリヤ……元老院議員にして、墜落時から生き残っている唯一の人間だ」
老人はそう言って、車椅子の上で足を組んだ。
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